積層セラミックコンデンサなど、電子部品の製造・開発で世界的なプレゼンスを誇る村田製作所。電子部品メーカーとして高いシェアを誇る製品群を抱えながら、刻々と変化する事業環境に対応するために、新たな人材戦略も打ち出している。今後その中核に置くのが、メンバーシップ型とジョブ型の良いところを取り入れた「ハイブリッド」な人事制度の整備だ。
村田製作所で人事を統括する戸井孝則氏は「当社の人材戦略の強みは『離職率』が非常に低いところにある」と話す。同社は日本の大企業としては珍しく「年功序列」を取り入れておらず、管理職以外の専門職にも高待遇を用意している。
村田製作所はどのようにして「離職率の低い職場」を維持しながらAI・DX関連で高い専門性を獲得しようとしているのだろうか。戸井氏に聞いた。
本稿は「Japan Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2023年10月10日)※内容は掲載当時のもの
なぜ若手が辞めないのか?
――村田製作所の人事制度は「メンバーシップ型」を中核におき、「ジョブ型」の良さを取り入れたハイブリッド型を志向されているとのことですが、どのような制度なのでしょうか。
戸井孝則氏(以下敬称略) 村田製作所の強みは個の力というよりも、総合的な組織力です。そのため、基本的には「メンバーシップ型」を主としています。しかし、それだけではDXやIT系の人材をはじめとする、より専門知識を求められる人材の獲得・活躍といった変化に対応しきれません。そのため、「ジョブ型」の良いところを組み入れて、ハイブリッド型とし、様々な専門性をもった人材が活躍できる多様なキャリアパスを用意した上で、離職率を低減させるような人事制度を用意しているのです。
元々、当社は離職率の低い会社です。新卒採用者の3年以内離職率は1.5%、経験者は0.7%(いずれも2022年度)と極めて低い数値を記録しています。採用市場で若手の早期離職が危惧される中、当社の若手が辞めない理由は大きく分けて2つあると考えています。
1つは、「社風への共感」です。ものづくり企業である当社は、独自技術を開発し「大量生産」しなければ商売が成り立ちません。つまり1人では仕事が完結しないということです。村田製作所に入社する人材はどんなに優れた技術を持っていても、チームプレイを大事にしています。経営陣も現場に足繁く通い、コミュニケーションを取るなど、現場との距離感がとても近いのです。若手も頻繁に上長から声をかけられることでモチベーションを保てているのだと思います。
2つ目は、先ほどもお伝えした多様なキャリアパスの提示。大企業では珍しいのですが、当社では年次に基づいて処遇が変わる「年功序列」を採用していません。入社して数年は大きな処遇差はつきませんが、慣れてくると完全な能力主義に切り替わります。また管理職以外にも、「シニアプロフェッショナル」や「シニアリサーチャー」など専門家として力を伸ばせる役職も用意しています。これらの等位においても管理職と同じ処遇をします。技術者にも魅力的な職場を整備できているのだと思います。