かつては世界シェアトップを誇った日本の半導体産業は、台湾TSMCや韓国サムスンなどの台頭によって今や「周回遅れ」と評される。書籍『Rapidus(ラピダス) ニッポン製造業復活へ最後の勝負』の著者であるNHKエグゼクティブ・ディレクターの片岡利文氏は、日本半導体産業の切り札といえるのが「Rapidus(以下、ラピダス)」プロジェクトだと語る。前編となる本記事では、日本半導体産業が凋落した理由と、ラピダスが描く戦略について同氏に話を聞いた。
■【前編】報道からは見えない真相、「半導体業界の革命児」が仕掛ける大勝負とは?(今回)
■【後編】AI時代を切り開く半導体新会社、「ラピダス」に注目すべきたった1つの理由
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日本の半導体産業に残された「復活の鍵」
――最新著書では、ラピダス 代表取締役社長の小池淳義氏(以下、小池氏)を軸として、ラピダスについて語られています。小池氏とは、いつ、どのように出会われたのですか。
片岡利文氏(以下敬称略) 小池氏に初めてお会いしたのは、2003年です。NHKのドキュメンタリー番組「NHKスペシャル」において、「よみがえれ日本経済 技術立国の再生」というタイトルで、当時小池氏が代表を務めていたトレセンティテクノロジーズ(以下、トレセンティ)の取材をしたときのことでした。
トレセンティは当時、世界最先端の300mmウエハーを一枚一枚処理して作る世界初の工場でした。携帯電話の頭脳となるシステムLSIを強みに「日本が半導体分野において世界に逆襲できるか」という期待を背負っていましたが、残念ながらその実現には至りませんでした。
この原因の一つとして挙げられるのが、携帯電話からスマートフォンへとプラットフォームの移行が進んだことです。AppleがiPhoneを普及させたことで、システムLSIの主な供給先だった国内のいわゆるガラケーや欧州のGSM携帯が市場を失っていきました。iPhoneにも日本メーカーの部品はたくさん使われていますが、その頭脳となる半導体を握ることはできませんでした。
最終的にトレセンティの工場は、親会社であるルネサステクノロジに吸収されてしまいました。その後、小池氏はアメリカの半導体メーカーであるサンディスク(現ウエスタンデジタル)の上級副社長兼日本法人社長として、東芝との合弁事業を仕切ることになります。
――小池氏は国内外の半導体業界に長らく影響を与えてこられたわけですね。
片岡 業界でも数少ない、半導体技術者であり経営者でもある人物です。本書の執筆に至ったきっかけも、半導体分野における新たな挑戦と挫折、そして世界の合従連衡の最先端を見てきた小池氏を軸にすれば、半導体産業の過去・現在・未来と「日本復活の勝ち筋がどこにあるか」を描けるのではないか、と考えたことにあります。