延岡 健太郎/大阪大学大学院 経済学研究科教授
1981年大阪大学卒。マツダに入社し、商品企画を担当。1988年MIT(マサチューセッツ工科大学)でMBA、1993年同Ph.D(経営学博士)取得。神戸大学経済経営研究所教授、一橋大学イノベーションセンター長を経て現職。著書に『キーエンス 高付加価値経営の論理』『アート思考のものづくり』『価値づくり経営の論理』(全て日本経済新聞出版)など。

 日本の製造業が高付加価値を生み出せないのは、「意味的価値」を高めるイノベーションを起こせていないからだ──。製造業が生き残るために今やるべきことを、経営学者の延岡健太郎氏(大阪大学大学院 経済学研究科教授)が解説する。前編で取り上げるのは圧倒的な高収益企業として知られるキーエンス。2023年3月に『キーエンス 高付加価値経営の論理』を上梓したキーエンス研究の第一人者・延岡氏に、同社の強さの源泉を語ってもらった。

なぜ、売上総利益率80%超が可能なのか?

――キーエンスは、直近の業績でも売上総利益率が80%を超え、製造業としては驚異的な高収益性を誇ります。なぜ、ここまで高い利益を出せるのでしょうか。

延岡健太郎氏(以下敬称略) 一般的なメーカーは、商品が古くなると付加価値が相対的に減り、価格を下げざるを得ない状況に陥ります。しかし、キーエンスはそれがあてはまりません。

 なぜかというと、既存商品、新商品を問わずキーエンスの商品は常に顧客企業の生産性を高め、利益を高めることに貢献しているからです。逆に言うと、顧客の生産性を大幅に高めるものしか作らず、売らないから、キーエンスの商品は高い付加価値を維持できているのです。

 また、キーエンスでは売上を追い求めて付加価値の低い商品をラインアップに加えることはしません。この点も、他のメーカーとの大きな違いになっています。

――販売価格にも違いはあるのでしょうか。

延岡 企業の存在価値は、付加価値を生み出すことに尽きます。製造業の場合の付加価値は原材料費と売り値との差額、つまり売上総利益額になりますが、これこそが、企業が生み出すイノベーションの経済的価値です。

 キーエンスの場合、売上総利益率が80%以上ですから、10万円の原材料費がかかっている商品を顧客が50万円で買っていることになります。一方、一般的なメーカーの場合、原材料費が10万円の商品の販売価格は、平均するとわずか14万円ほどです。

 なぜ、これほどの付加価値の差が生まれるのか不思議に思うかもしれませんが、先ほど「付加価値=イノベーション」と言った点が、ここに表れています。

 多くの企業が商品の付加価値は機能や性能の向上で生まれると考え、そこに力を入れています。しかし、機能的な改善によって高付加価値を生み出し、イノベーションを起こすことは難しくなっています。最近よく「モノからコトへ」と言われますが、モノの機能的価値にこだわる企業にはイノベーションが困難な時代になっているのです。