(出所)経済産業省

 15年後に生き残れるのは、どのような自動車メーカーなのか? 脱炭素化、AI普及など、世界が「ニューノーマル」(新常態)に突入し、ガソリンエンジン車主体の安定した収益構造を維持できなくなった企業が考えるべき新たな戦略とは? シティグループ証券などで自動車産業のアナリストを長年務めてきた松島憲之氏が、産業構造の大転換、そして日本と世界の自動車メーカーの、生き残りをかけた最新のビジネスモデルや技術戦略を解説する。

 第7回は、企業や業界を横断したデータ連携を目指す仕組みとして、経済産業省が中心となって実用化に取り組む「ウラノス・エコシステム」について解説する。

日本で始まった「ウラノス・エコシステム」

 前回は、欧州では2021年に自動車のバリューチェーン全体でデータを共有するためのアライアンスである「Catena-X」(Catena-X Automotive Network:カテナエックス自動車ネットワーク)」が構築され、これが欧州企業の新サプライチェーン構築のスピードアップに大きく貢献する可能性が高いことを述べた。

 欧州の自動車業界の既存バリューチェーンがカテナ-Xの情報ネットワークにつながることで、参加企業が、品質管理プロセスや物流プロセスの効率向上、CO2排出量削減、マスターデータ管理の簡素化などを実現できる。

 また、革新的なビジネスプロセスとサービスを開発することができるようになる。言い換えれば、カテナ-XはEVや自動走行車に必要な新技術の情報をプラットフォーム化しており、これが本格展開されれば、EVや自動走行車の開発スピードは、従来のすり合わせ統合型の調達機能に比べると圧倒的に早くなるのである。

 EVや自動走行車では、新技術の実用化をスピードアップすることが勝負のポイントとなる中、カテナ-Xを活用することができる欧州企業が覇者になる可能性が高まっており、日本の自動車産業にとって大きな脅威になる可能性がある。

 経済産業省は2023年4月29日に、社会課題の解決に必要な、企業や業界を横断しデータを連携・活用するイニシアチブを「Ouranos Ecosystem(ウラノス・エコシステム)」と命名すると発表。欧州の「GAIA-X」やカテナ-Xなど世界中でデータ共有の枠組みづくりが進む中、日本ではウラノス・エコシステムがその中核的な役割を果たすという構想である。

 ウラノス・エコシステムは、経済産業省が主導し、情報処理推進機構(IPA)のデジタルアーキテクチャ・デザインセンターや新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などが参加して構築された。

 ウラノス・エコシステムは、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(物理空間)を高度に融合するSociety5.0において、「経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」というビジョンを実現するための具体的な取り組みである。

 人手不足、気象災害の激甚化、脱炭素への対応といった社会課題を解決しながら、イノベーションを起こして経済成長を実現するためには、企業や業界、国境をまたぐ横断的なデータ共有やシステム連携の仕組みの構築が必要となる。そうした中、ウラノス・エコシステムの下での業界横断的なシステム連携の実現を目指し、人流・物流DXおよび商流・金流DXに革新を起こそうというものである。