延岡 健太郎/大阪大学大学院 経済学研究科教授
1981年大阪大学卒。マツダに入社し、商品企画を担当。1988年MIT(マサチューセッツ工科大学)でMBA、1993年同Ph.D(経営学博士)取得。神戸大学経済経営研究所教授、一橋大学イノベーションセンター長を経て現職。著書に『キーエンス 高付加価値経営の論理』『アート思考のものづくり』『価値づくり経営の論理』(全て日本経済新聞出版)など。

 日本の製造業が生き残るために今やるべきことは何か。前編では、キーエンス研究の第一人者である経営学者、大阪大学大学院 経済学研究科教授の延岡健太郎氏に、キーエンスの強さの源泉について語ってもらった。後編では、これからの「ものづくりの在り方」について考える。ものづくり企業が今こそ備えるべき「アート思考」について延岡氏が解説する。

これからの製造業には「技術とソリューションの融合」が必要

――前編で、イノベーションは「機能的価値」の向上だけではないというお話がありました。機能的価値以外の付加価値アップに成功した製造業の事例を教えてください。

延岡健太郎氏(以下敬称略) 顧客にとっての商品の価値は機能的価値だけでは決まりません。最終的に顧客がその商品を購入し、高い費用対効果を得たときに初めて、その商品は価値が高いということになります。そのため、商品の使いやすさはもちろん、その設置や運用まで含めて、トータルで高い評価を得る必要があります。つまり、「技術とソリューションの融合」が不可欠なのです。

 例えば、キーエンスの商品に3次元形状測定器というものがあります。従来、製造業が仕入れた部品の寸法を確認しようと思ったら、投影機を使って拡大した画像を作業者が目視で測定する必要がありました。しかし、これには熟練が必要な上、部品を使う場面を想定して位置を動かしながら寸法を図らなければならず、多くの時間がかかっていました。

 キーエンスはこの課題に着目し、測定対象物を特殊なカメラで撮影し、その画像を解析することで、わずか3秒間で300カ所の寸法測定ができる商品を開発しました。これにより、測定時間が圧倒的に短縮されました。また、時給の高いベテラン技術者だけでなく新入事務員も測定ができるようになったことで大きなコストダウンも実現できました。商品の価格は高いのですが費用対効果がそれを上回るため、多くの顧客が喜んで購入しています。

 この商品は「顧客の検品作業にかかる時間の大幅な削減」という価値を提供するために、高い画像測定技術とソリューション提案力を組み合わせた好例といえます。私はこうした商品開発の手法を「コンサルティング営業」と「コンサルティング開発」の融合と呼んでいます。