日本ガイシ 代表取締役副社長の丹羽智明氏(撮影:宮崎訓幸)

 独自のセラミック技術でグローバルに事業を展開する日本ガイシが、大がかりな企業変革を進めている。同社の自動車向け排ガス浄化装置用製品は世界の車の約半数に使われているが、「新車は全て電気自動車」時代が到来すると、需要は大きく減少することになる。市場環境の激変に備えて、同社は新たな理念とビジョン、2050年のありたい姿を策定。代表取締役副社長 技術統括の丹羽智明氏に、その実現への取り組みを聞いた。

DXをありたい姿に向かう推力に

――「NGKグループビジョン Road to 2050」で、2050年のありたい姿を定めました。それはどのような姿で、どのように実現するのでしょうか。

丹羽 智明/日本ガイシ 代表取締役副社長 技術統括、研究開発本部・製造技術本部・DX推進統括部・品質経営統括部・環境安全衛生統括部所管

昭和59(1984)年 日本ガイシ入社、環境装置のエンジニアリング事業に長く従事し、産業プロセスや電力関連事業の技術・設計の責任者を歴任。平成25年 執行役員、製造技術本部・環境経営・全社品質を所管、量産工場建設から生産性改善等の社内エンジニアリングと全社の環境・品質経営を統括。令和2年から現職。
―――――
座右の銘:「疾風勁草」(しっぷうけいそう)。激しい風が吹いてはじめて丈夫な草が見分けられる。苦難にあってはじめて、その人の節操の堅さや意志の強さがわかる(「後漢書」王覇伝から)。会社で大変なことが起こった時に、どれだけ頑張れるかが大事だと思っています。風に飛ばされない草になりたいなと思ってますし、風が来た時に頑張るんだと私自身は思っています。
気になる会社:AGC 数年先を見据えていて、いろいろな新商品の出し方も含めて素晴らしいと思います。/日東電工 三新活動という新事業を広げる時の考え方や、規模や領域は違いますがグローバルニッチトップという部分が、当社に近い思想だと思っています。DXの取り組みでは情報交換するなど悩みを共有する機会を設けています。
お薦めの書籍:『データドリブン思考−データ分析・AIを実務に活かす−』(河本薫著)。意思決定のプロセスを分かりやすく解説してくれています。実践現場で、ご苦労されたことが書かれているので、私はとても腹落ちしています。

丹羽智明氏(以下敬称略) 当社は創立100周年の折りにNGKグループ理念を再定義し「社会に新しい価値を そして、幸せを」という私たちの使命をグローバル拠点の社員全員に共有しました。2年後の2021年には、理念を具現化するためのグループビジョンに「独自のセラミック技術でカーボンニュートラルとデジタル社会に貢献する」を2050年のありたい姿として掲げました。

 この達成のためになすべきこととして取り組んでいるのが、「ESG経営」を中心と位置付け、既存事業での「収益力向上」、新規事業化を推進する「研究開発」と「商品開花」「DX推進」という5つの変革です。

 研究開発と商品開花のために、10年で3000億円の研究開発費を投資していきます。2030年までに、この2つの変革を実現して新事業や新商品で1000億円以上を売り上げる目標を掲げています。

 ありたい姿に向かう推力と位置付けるのが、DX推進です。2023年までをステージ1とし「デジタル活用の基盤づくり」のためにアナログデータのデジタル化を進めています。2025年までがステージ2で、DX経験を社内で水平展開します。2030年までがステージ3で、データとデジタル技術を活用した変革を達成します。

 日本ガイシがこうした変革を進めていく背景には、事業環境の変化への危機感があるからです。「2035年以降の新車は全て電気自動車」という規制が進むと、当社が得意とする排ガス浄化用のセラミック製品の多くが必要でなくなります。自動車向け業務のピークアウトが見えてきた危機感が、会社全体として「変革しなければならない」「10年後ではなく今からやらないと間に合わない」という思いにつながりました。