デジタル変革の象徴的企業として富士フイルムホールディングスを挙げる人は多いだろう。写真フィルム事業から、デジタル技術を活用した事業への大転換を図った経験を持つ。そのレガシーをどうDXに生かし、変革を続けているのだろうか。同社CDOの杉本征剛氏は「何のためにDXに取り組むのか」を考え続けることの重要性を強調し、これを実行する複数の具体策を披露した。

ボトムアップに加えてトップダウンのDX推進も

――富士フイルムグループにおけるDXの歩みをお聞きします。

杉本 当社は、1980年代から、いずれデジタルの時代が来ると分かっていたので、デジタルを活用して事業·業務を進化・変革するための備えをしてきました。2000年代、デジタルカメラの台頭を受け、写真フィルム中心だった事業を、デジタル技術も活用して、新しい業態へと転換しました。いわゆる「第二の創業」です。

 2010年代、人工知能(AI)、モノのインターネット(IoT)、ビッグデータなどの技術や情報の広がりに「今回のこの潮流は本物だ」と考え、2014年、ICT戦略推進プロジェクトを全社的にスタートさせました。
 その後、2017年にチーフ・デジタル・オフィサー(CDO)、また部門ごとのデジタル・オフィサー(DO)を設置。2021年にAll-Fujifilm DX推進プログラムを設置し、ICT戦略推進プロジェクトで進めていた現場中心の活動に、All-Fujifilm DX推進プログラムのトップダウン活動も組み合わせて、DX推進をしています。

「何のためのDXなのか」を明確に設定する

――デジタル化の波を受けて進めた「第二の創業」はDXに好影響だったわけですね。

杉本 「第二の創業」を経験して、変革マインドに溢れる企業体質になっていたと思います。それに加えて、従業員が「何のために変革するのか」をしっかり考え、一人一人が腹落ちできたことにより、変革が加速したと思っています。
 DXというバズワードのままでは、従業員一人一人の心の奥底までその重要性が入っていきません。「何のためのDXなのか」をメッセージとして従業員に継続的に伝えていくことが大切です。

 では、富士フイルムとしては、何のためのDXなのか。2021年、All-Fujifilm DX推進プログラムをスタートするにあたり、グループとしての「DXビジョン」を設定しました。「わたしたちは、デジタルを活用することで、一人一人が飛躍的に生産性を高め、そこから生み出される優れた製品·サービスを通じて、イノベーティブなお客さま体験の創出と社会課題の解決に貢献し続けます」というものです。

 さらに、このDXビジョンの上位概念に、2017年にグループとして打ち出した「サステナブル・バリュー・プラン 2030(SVP2030)」の存在があります。事業を通じて社会課題の解決に取り組み、サステナブル社会の実現にさらに貢献する企業となることなどを目指したものです。
 つまり、SVP2030をデジタル技術で確実に実行していこうという願いを込めて、DXビジョンを策定しました。これが、「何のためのDXなのか」の1つの答えになります。