デジタル変革の象徴的企業として富士フイルムホールディングスを挙げる人は多いだろう。写真フィルム事業から、デジタル技術を活用した事業への大転換を図った経験を持つ。そのレガシーをどうDXに生かし、変革を続けているのだろうか。同社CDOの杉本征剛氏は「何のためにDXに取り組むのか」を考え続けることの重要性を強調し、これを実行する複数の具体策を披露した。

<編集部からのお知らせ>
富士フイルムホールディングスの杉本征剛​氏も登壇するオンラインイベント「第7回ものづくりイノベーション」を、2022年11月15日(火)、16日(水)に開催します!
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富士フイルム 杉本氏のほか、トヨタ自動車TPS本部 本部長 尾上恭吾氏、村田製作所 執行役員 安藤正道氏やデンソー 研究開発センター 執行幹部を務める成迫剛志氏の講演などDXと企業変革を推進するキーパーソンが多数登壇します!
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ボトムアップに加えてトップダウンのDX推進も

――富士フイルムグループにおけるDXの歩みをお聞きします。

杉本 当社は、1980年代から、いずれデジタルの時代が来ると分かっていたので、デジタルを活用して事業·業務を進化・変革するための備えをしてきました。2000年代、デジタルカメラの台頭を受け、写真フィルム中心だった事業を、デジタル技術も活用して、新しい業態へと転換しました。いわゆる「第二の創業」です。

 2010年代、人工知能(AI)、モノのインターネット(IoT)、ビッグデータなどの技術や情報の広がりに「今回のこの潮流は本物だ」と考え、2014年、ICT戦略推進プロジェクトを全社的にスタートさせました。
 その後、2017年にチーフ・デジタル・オフィサー(CDO)、また部門ごとのデジタル・オフィサー(DO)を設置。2021年にAll-Fujifilm DX推進プログラムを設置し、ICT戦略推進プロジェクトで進めていた現場中心の活動に、All-Fujifilm DX推進プログラムのトップダウン活動も組み合わせて、DX推進をしています。

「何のためのDXなのか」を明確に設定する

――デジタル化の波を受けて進めた「第二の創業」はDXに好影響だったわけですね。

杉本 「第二の創業」を経験して、変革マインドに溢れる企業体質になっていたと思います。それに加えて、従業員が「何のために変革するのか」をしっかり考え、一人一人が腹落ちできたことにより、変革が加速したと思っています。
 DXというバズワードのままでは、従業員一人一人の心の奥底までその重要性が入っていきません。「何のためのDXなのか」をメッセージとして従業員に継続的に伝えていくことが大切です。

 では、富士フイルムとしては、何のためのDXなのか。2021年、All-Fujifilm DX推進プログラムをスタートするにあたり、グループとしての「DXビジョン」を設定しました。「わたしたちは、デジタルを活用することで、一人一人が飛躍的に生産性を高め、そこから生み出される優れた製品·サービスを通じて、イノベーティブなお客さま体験の創出と社会課題の解決に貢献し続けます」というものです。

 さらに、このDXビジョンの上位概念に、2017年にグループとして打ち出した「サステナブル・バリュー・プラン 2030(SVP2030)」の存在があります。事業を通じて社会課題の解決に取り組み、サステナブル社会の実現にさらに貢献する企業となることなどを目指したものです。
 つまり、SVP2030をデジタル技術で確実に実行していこうという願いを込めて、DXビジョンを策定しました。これが、「何のためのDXなのか」の1つの答えになります。

――社内へのDXの浸透をどのように図っていますか。

杉本 社長・CEOの後藤(禎一氏)、取締役・CFOの樋口(昌之氏)、CDOの私、人事管掌役員が従業員に向けて、「何のためのDXなのか」にあたるDXメッセージを継続的に発信し続けています。
 DXビジョンを打ち出した後、全事業部長に「事業部DXビジョン」の策定と宣言、その実現に向けた課題設定をお願いしました。これには、事業部長自ら事業部DXビジョンと課題を掲げてもらうことで、DXを自分事として捉えてもらうという狙いがありました。こうした取り組みは、全社のDX推進意識を高め、DXの浸透を図る上では大変効果があったと思っています。

メディカルシステム事業をリカーリング事業に

――具体的なDXの事例を1つご紹介いただけますか。

杉本 当社の「DX基盤」の中の「製品・サービス」DXから、メディカルシステム事業の製品DXを紹介します。当社は、メディカルシステム事業を医療機器販売を中心とした「モノ」売り中心の事業から、リカーリング、つまり「モノ+コト」売りのお客さまに継続的な価値提供ができる事業へと変革していきたいと思っています。

 疾患別新規事業の創出では、ディープラーニングを活用して開発した画像解析機能のクラウドサービスの提供を始めました。また、お医者さま自らが画像診断支援AIを開発する際に必要となる、「プロジェクト管理、アノテーション作成、AIモデル作成、実行」などの機能を備えた、AI開発支援サービスの提供も始めています。

 リカーリング事業では、パッケージサービスの提供も進めています。2021年2月、AI技術を活用した健診センターをインドに開設しました。健康診断サービス事業を通じて、医療途上国におけるがん・生活習慣病の早期発見に寄与するなど、医療課題の解決にも貢献していきたいと考えています。
 今後は、富士フイルムの医療AI技術を活用した製品・サービスを2030年度までにすべての国へ導入し、世界中どこでも高品質な医療へのアクセスが可能となるような状況をつくり上げていくことを目指します。

 メディカルシステム事業は、フィルム使用製品がデジタルプレートになるなど、デジタルによる業態変革を経験しており、その経験を生かしてグループ全体のDX牽引役を担ってくれています。

――DXを進める上でのポイントはどこにあると感じていますか。

杉本 「デジタルに期待する」という意識を皆さんが持つことが大切だと思います。「第二の創業」の時にも、2014年のICT戦略推進プロジェクトの時にも感じたことですが、デジタル技術が事業·業務を魅力的なものにしてくれるという期待が、富士フイルムグループ従業員の心の中にはあったし、今もあり続けていると思います。
 ただし、その期待だけでは推進力に限界があります。それに加えて経営トップを巻き込んだ推進体制の構築が重要だと思います。全事業を巻き込んだ変革が、動き始めたと実感しているところです。

◇ ◇ ◇

第7回ものづくりイノベーション」ではこの他、トヨタ自動車TPS本部 本部長 尾上恭吾氏、村田製作所 執行役員 安藤正道氏やデンソー 研究開発センター 執行幹部を務める成迫剛志氏の講演なども予定されている。

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