岩倉 はい。いま私立の大学は定員割れでどんどん潰れていったりしています。そういう大学から指導に来てくれと頼まれるんですが、当事者に「その気」がないとね。学生が減りレベルも落ちてきて、ただ「困った困った」と騒いでいるだけ。

 まずはそういった「現象」を注視する、あるいはそのための原因を探る。そして普遍的な原理を自分で見つけ出すという習慣が、教育の現場ではないんじゃないのかと感じ、僕ならばこうするということを多摩美では実践した。要するに、教育の現場をデザインしてみようと。そしてその考え方のすべては、本田さんや藤沢さんや、ホンダの先輩方から薫陶(くんとう)を受けて刷り込まれてきたものでした。

柳井 僕が本田さんから学んだのは「全員経営」と「世界一」。世界一になろうと想わない限り、絶対になれないということ。そしてもう1つは「挑戦」です。

 それまではオートバイをつくって世界一になり、今度は四輪へなんて、普通考えないですよね。それもGMやフェラーリ、日本でもトヨタという巨人がいる中でですよ。でもそれに挑戦していく。しかもアメリカで工場をつくる。経営者として常識的に考えたら、こいつは頭がおかしいのか、と思われるようなことを実行した。

 一方ドラッカーは「自分の強みをより強くせよ」ということとともに「企業の目的は、それぞれの企業の外にある」と述べています。

 その企業の商品を使っている人よりも、使っていない人のほうが多い、我々でいえば、自分たちの店に来てもらっている人よりも、来ていない人のほうが多いという、これはすごい現実だと思うんです。

 だったら、あらゆる人を自分の店の顧客にする。そのためにはどうすればいいかを考えて実行する。その範囲が広ければ広いほど、世界一になれる可能性は高まっていく。

 我々は世界中の服装に合うような、いわば「部品」としての服をつくりたいと考えています。その時に、やはり日本人ならではの品質への拘(こだわ)りや、すごく丁寧な売り方をするといったこと。

 そういう、日本人にとっての強みを生かすことが一番重要だと思うんです。

全員経営とグローバル・ワン

岩倉 ドラッカーは組織のあるべき姿についてさまざまな言及をしていますが、組織というのは本来、何かをやるために必要なものです。だからそのためにはどんなふうに組織があればいいのかを、常に考えていなければならない。したがってホンダでも、組織のつくり方を随分と変えてきました。

 どの企業でもそうでしょうが、品質向上やコスト削減は、トップから指示を出す「縦軸」でやると一番やりやすいんですよね。でもそれを金科玉条(きんかぎょくじょう)のようにしていると、マンネリ化してきて危なくなっている企業もたくさんあります。