近年、自社の経営理念を見つめ直し、パーパスを制定する日本企業が急増している。そうした中、「パーパスをはじめとする“流行の経営用語”には落とし穴もある」と警鐘を鳴らすのが、一橋大学名誉教授の伊丹敬之氏だ。経営トップは経営理念やパーパスの役割をどのように理解し、活用すべきなのか。2024年7月、書籍『経営理念が現場の心に火をつける』(日経BP 日本経済新聞出版)を出版した伊丹氏に、経営理念を用いて組織を飛躍に導くメカニズムについて聞いた。(前編/全2回)
■【前編】世界最高峰・マン島TTレースを完全制覇したホンダ、倒産危機の中でも本田宗一郎がブレずに追い求めたもの(今回)
■【後編】アマゾンとグーグルの意外な共通点、現場の心に火をつける本物の経営理念の力とは(11月18日公開予定)
「人間を動かす」には何が必要なのか
──著書『経営理念が現場の心に火をつける』では、経営理念を用いて従業員や組織を飛躍に導くメカニズムについて、実例を交えて解説しています。優れた経営を行う上で、経営理念が果たす役割とは何でしょうか。
伊丹敬之氏(以下敬称略) 本田技研工業の創業者、本田宗一郎氏(以下、本田氏)の「人間を動かすスパナは哲学である」という言葉が、その答えを提示しています。
本田氏が伝えたかったのは「哲学が従業員の心に火を点ける」ということでしょう。哲学や理念といった一見抽象的なものが経営においては大きな役割を果たすのです。
──著書では、本田氏が創業間もないころから社内報や工場での朝会など、さまざまな場面で経営理念や自身の経営哲学について発信していたことを紹介しています。そこにはどのような目的があったのでしょうか。