コア技術をいかにイノベーション創出につなげるか。この問いを、製造業の技術・事業を牽引するキーパーソンに投げ掛ける。今回、話を聞いたのは王子ホールディングス(以下、王子HD)イノベーション推進本部本部長の道川浩平氏。セルロース・ナノ・ファイバー、バイオ素材、さらに医薬品などの新事業創出の裏側には、祖業の「紙づくり」「森づくり」で培った技術の活用と、社員の技能を最大化する実践があった。
「千三つ」といわれる成功確率を高めていく
「イノベーションとは何か」と問うと、道川氏は「社会にある既存の価値観を変えること。新たな価値観を社会に生み出すこと」と答えた。
2023年で創業150周年となった王子HD。新素材や新製品の開発を担うのが、道川氏率いるイノベーション推進本部だ。2014年、研究開発本部から改組し、発足した。王子グループが新たに制定したパーパスや、「2030年度連結売上高2.5兆円以上」などを目標に定めた長期ビジョンの下、研究開発を進めている。
イノベーション創出は同社の至上命題であることが道川氏の言葉から伝わる。
「デジタル化で、紙の主要な役割の一つである情報記録としての使用が減っています。新規事業を拡大していかないと、会社の将来はない。サステナビリティ社会に貢献する事業の創出も求められています」
新規事業の成功確率の低さを表す言葉に「千三つ」がある。1000の試みのうち成功するのは3という意味だ。「その成功確率を高めていくこと。それこそが私どもの使命」と道川氏は強調する。