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 産業横断の戦略構想、新たなビジネスモデル創造などの重要性が高まる時代には、あらゆる業種において“創造と変革”を推進するリーダーが求められる。本連載では、世界有数の戦略コンサルティングファームA.T. カーニーの日本のメンバーが、国内19の業種における最新トレンドを分析した『A.T. カーニー 業界別 経営アジェンダ 2025』(A.T. カーニー編/日経BP 日本経済新聞出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。「小売」「エネルギー」に加え、業界横断のテーマ「M&A」にフォーカスする。

 第4回も引き続き、小売業界(第14章:中川健太・小林洋平・関灘茂著)を取り上げる。「海外展開」と「新たなビジネスモデル」をキーワードに、日本の小売企業が目指すべき方向性について考える。

地理的拡大の最先端・試行錯誤とその背景にあるメカニズム

A.T. カーニー 業界別 経営アジェンダ 2025』(日本経済新聞出版)

 これまでの日本発小売の海外進出は苦戦・苦労の連続であったと言えるでしょう。今でこそ海外進出の成功例として語られるファーストリテイリングでさえ、2000年初頭に英国への出店~その後の撤退を経験しており、良品計画の中国進出や、ドン・キホーテのアジア展開のような一部の成功例は存在しますが、ほとんどの日本発小売企業は、売上の大宗が国内市場となっており、グローバル展開に成功しているとは言い難い状況です。

 グローバルの小売企業に目を向けると、ヒト・モノ・カネが往来しやすく、各国間の商習慣が比較的近しい欧州においては、例えばドイツ出自のディスカウンター系スーパーのリドルのように、欧州横断での展開に成功している例も存在します。

 他方、地域を越境しての地理的拡大には、グローバルトップの小売企業であっても苦戦しています。例えば、ウォルマート、カルフール、テスコはいずれも日本市場に参入しましたが、その後撤退しています。結果、地理的拡大に成功しているのは、先に挙げたリドルのような、安さが普遍的な価値として受け入れられる市場において、スケールメリットを活かす形で拡大したディスカウンターSMや、グローバルで普遍的な利便性ニーズを充たすCVS程度ではないでしょうか。

 これに対し、DGS・HC・百貨店・雑貨小売等は、いずれもローカル市場での仕入れ~販売が主となっている業態であり、グローバル展開の難度は高いのが実態です。