産業横断の戦略構想、新たなビジネスモデル創造などの重要性が高まる時代には、あらゆる業種において“創造と変革”を推進するリーダーが求められる。本連載では、世界有数の戦略コンサルティングファームA.T. カーニーの日本のメンバーが、国内19の業種における最新トレンドを分析した『A.T. カーニー 業界別 経営アジェンダ 2025』(A.T. カーニー編/日経BP 日本経済新聞出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。「小売」「エネルギー」に加え、業界横断のテーマ「M&A」にフォーカスする。
第1回は、M&A(第17章:久野雅志・三野泰河著)を取り上げる。近年の日本におけるM&A市場活況の背景、現預金、金庫株をはじめ増大する日本企業の投資余力などについて見ていく。
活況な日本M&A市場と、5つの変化
2023年後半から2024年の日本のM&A市場を振り返ると、MBO(経営者による買収)も含め上場企業の非公開化、日本企業による海外企業の大型買収やPEファンドによる企業買収の活発化など、従来からのトレンドが継続し引き続きM&Aが活況な年でした。
2023年、2024年における大型買収を見てみると、日本製鉄によるUSスチール(米)の買収やアステラス製薬によるアイベリック・バイオ(米)の買収などのクロスボーダーの超大型案件や、PEファンドによる日本の半導体関連銘柄を中心とする数千億円の大型案件が相次ぎました。
一方で、同時期の世界に目を向けると、世界的にはインフレ対策の利上げなどに伴い景気減速の恐れが高まり、不確実性が大きくなる中で企業の買収意欲に陰りが見え、欧米のM&A市場は、好調だった2010年代と比べると、明らかにスローペースとなりました。
具体的には、欧米のM&A市場は、2021年から2024年にかけて4期連続で、前年比件数ベースでの減少が予測されています。しかし、我々の海外オフィスの同僚たちと話していると、足元では、欧米においても利上げにもかかわらず消費が想定よりも落ち込んでいないこと、企業の資金の調達コストの予測可能性が高まっていることから、再びM&Aの機運が高まっているようで、来年以降はM&A市場が回復するのではという期待が広がっているようです。