産業横断の戦略構想、新たなビジネスモデル創造などの重要性が高まる時代には、あらゆる業種において“創造と変革”を推進するリーダーが求められる。本連載では、世界有数の戦略コンサルティングファームA.T. カーニーの日本のメンバーが、国内19の業種における最新トレンドを分析した『A.T. カーニー 業界別 経営アジェンダ 2025』(A.T. カーニー編/日経BP 日本経済新聞出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。「小売」「エネルギー」に加え、業界横断のテーマ「M&A」にフォーカスする。
第5回は、エネルギー業界(第2章:筒井慎介・大島翼・沼田諒平著)を取り上げる。脱炭素化の流れがエネルギー市場にもたらしている需給バランスの不確実性とは?
① 電力市場の不確実性
昨今の電力市場の不確実性を高めている要因の一つとして脱炭素化が挙げられます。脱炭素化の実現に向けては、再生可能エネルギー(再エネ)の拡大、原子力の再稼働と新設、石炭火力発電の撤退、そして水素やアンモニア火力の導入、CCS/CCU技術、エネルギー利用の効率化、DRの拡大など、数多くの候補となる手段が存在します。
一方それぞれの手段を推し進めるうえではそれぞれにリスクが存在し、また互いに独立ではありません。
■ 火力発電事業者の視点:脱炭素化に係るリスク
脱炭素化の話題の中で、火力発電事業からの視点を最初に取り上げるのは意外に思われるかもしれません。しかし、現実の電力供給には、火力発電が果たす不可欠な役割があり、その役割をどうしていくのかが問題なのです。電力の特性上、変動する需要に対して常に一致する供給を同時に行う必要がありますが、太陽光発電や風力発電といった再エネは天候の影響を受けやすく、安定した供給が難しい。
こうした中で、他の電源の供給を補完し、電力供給の安定性を保つ役割を果たすものが必要であり、この役割を担えるのは今のところ火力発電だけです。電力の脱炭素化が難しいのは、必然的に二酸化炭素を排出する火力発電がその実、電力システムの要だからです。勿論、揚水発電や蓄電池で代替することも理屈上は可能ではありますが、経済性と必要土地面積の観点で劣後するため、全てを代替することは現時点では難しいと言わざるを得ません。