今後、脱炭素化が進んでいくとすれば、その中で火力発電事業者が抱える大きなリスクは、以下の3つがあります。
① 再エネの拡大によって供給量(売電量)を奪われていくという経済的なリスク
② 必要な電源の容量を維持できなくなるリスク
③ 必要な燃料が調達できなくなるリスク
1点目は、電源間の競争から発生する、ある種自然なリスクですが、2点目と3点目は微妙な問題をはらんでいます。
2点目は典型的には、もはや化石燃料電源(石炭/LNG火力)の維持が割に合わない1、と事業者が判断するような場合に発生する、電力システムにおける電源容量の不足リスク(電力システム全体の目線)です。石炭価格の動向や社会的圧力の増加から、これは実際に起きつつあることです。
これは、本来事業者が考えるべきリスクではないのですが、元来、(コストはさておき)安定供給には極めて強い責任感を持つ大手電力会社にとっては、考え方の難しいリスクになっていきます。
3点目も構造は似ていますが、燃料調達サイドのリスクです。再エネが増加すると、全体としての火力発電に求められる供給量は低下する、つまり必要な燃料の量は減少します。一方で、再エネ出力が低下する時間においては、火力発電が電気を供給しなければなりません。つまり発電所の稼働率が落ちて、燃料需要のボラティリティが高まることになります。
再エネの出力を見通すのは難しいため、燃料がいつ必要になるのかを見通すのも今後徐々に難しくなっていきます。LNGの場合、調達には2カ月程度は必要であるため、燃料運用が回らなくなっていく可能性があるのです。中長期的な目線にはなりますが、原子力再稼働・新設・増設の見通し難さも燃料所要量見通しの難易度を高めている要因です。
国としてもこれらの要因から燃料不足になる可能性を危惧し、戦略的余剰LNG(SBL:Strategic Buffer LNG)の仕組みを導入しました。
安定供給のためのリスクヘッジコストを官が負担するという点で大きな進歩ではありますが、現状は月1カーゴ(≒7万トン)とセーフティネットとしては心許ない水準となっています2。
こうしたリスクについてどう対応していくのか、ということが火力発電事業者の、あるいは電力システムの制度設計上の課題になっていきます。リスク対応に係るコストは間接的に国民負担となっていくかもしれません(一部はそうなっています)。
しかしそれも難しく、結局火力発電事業者が負担せざるを得ない安定供給上のリスクが残るのであれば、そのリスク削減のため火力発電事業者の燃料部門や発電部門は今後統合されていく可能性も出てくるかもしれません。脱炭素時代に火力発電の担うリスクの負担を巡って、今後こうした変化につながっていく可能性があります。
1 https://www.g7italy.it/wp-content/uploads/G7-Climate-Energy-Environment-MinisterialCommunique_Final.pdf
2 https://www.jera.co.jp/news/information/20231129_1739