■ 再エネ電源開発事業者の視点:方法論の多様化
今後の日本の再エネ開発の主役は、太陽光発電と風力発電です。太陽光・風力発電が拡大していくという基本的な方向性については、今日ではどのような立場からも異論のないところだと思いますが、一方で経済性、あるいは外部不経済の大きさからその拡大速度には自ずと制約があります。
固定価格買取制度(FIT)3が始まった2012年から急激に拡大し続けている太陽光・風力発電ですが、その成長率は近年やや鈍化しており、今後の成長軌道は必ずしも約束されたものではありません4。そんな中で、自前で再エネ電源を持とうと志向する事業者は、何らかの形で自社のアセットを活用したグリーン電源の開発を進めています。
例えば、敷地内(あるいは近隣)に大きな電力需要地が存在する工場等の遊休地を活用した太陽光発電の敷設、あるいは遠隔地においても自己託送制度5を活用した再エネ自家発電源の開発、といったものです。ソニーが自社倉庫や牛舎の屋根を活用して始めたスキーム6が有名です。
2023年末には、このような取り組みは自己託送の本来の趣旨にそぐわないとし、適用が厳格化されていますが7、製造業をはじめ、多くの事業者がこうした再エネ調達スキームへのチャレンジを実行、または計画しています。
この流れの中で、再エネ開発を志向する事業者が考慮すべきリスクもまた多様化してきています。再エネ電力から長期安定的な収益を確保するために、誰にどのようなスキームで売り、どのように自家消費すべきか、蓄電池は入れるべきか。
こうしたことを検討するにあたって、電力価格の変動リスク、天候リスク、インバランス8リスク、様々な制度的リスク、資産の劣化リスクなどを考慮する必要があり、さらにその背景として資源価格・為替リスク、地政学的リスクまで勘案しなくてはなりません。
こうした新たなリスク構造の発生に応じて、そのリスクの一部を切り出して引き受ける保険的機能を持ったビジネスや、既存の需給調整機能組織の分離・外販を目指す事業者が出てくるなど、リスクマネジメントに関する様々なスタイルが出てきています。
3 https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/surcharge.html
4 https://www.meti.go.jp/shingikai/santeii/pdf/079_01_00.pdf
5 https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/summary/regulations/pdf/ zikotakuso20240212r.pdf
6 https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01670/00007/
7 https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/068_03_00.pdf
8 https://www.emsc.meti.go.jp/info/public/pdf/20220117001b.pdf
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