小売企業にとっての新ビジネスモデルの最先端・試行錯誤とその背景にあるメカニズム

 そもそも小売業は、B2C領域の業界の中でも利益率の低い業界です。従って、これまで小売企業が開拓してきた事業領域は、小売で培ったアセットの活用を通じて、高い利益率を実現できる領域であり、その一つが金融事業です。SM・GMS・百貨店・CVS等の様々な小売業態が、リアル店舗での個客接点を起点に、個人向けバンキングやクレジットカード等を展開してきました。これからの小売企業が狙い得る新しい事業領域・ビジネスモデルとしては、様々な方向性が想定し得るものの、その一つは、保険や個人向け金融商品等の拡販による「個人向け金融事業」の開拓でしょう。

 また、リアル店舗での個客接点を活用した新たな事業領域として近年注目されているのは、金融事業と同様に、小売比で高マージンを確保しやすい「リテールメディア事業」です。広義のリテールメディア市場の隆盛は、サードパーティーCookie規制の厳格化等を背景に、Facebook・Googleと同様に大規模な消費者のトラフィックでありながら自社サイトへの訪問データ=ファーストパーティーデータを有していたAmazonをはじめとするECプラットフォームの広告出稿の場として注目を集めたことがきっかけでした。その後、リアル店舗小売出自のウォルマートも自社ECサイトを起点にリテールメディア事業を拡大し、2022年時点で約27億ドル・同社の売上全体の5%にまで成長しています。

 ただし、先行する米国に比べると未だ国内のリテールメディア市場は黎明期であり、また大手小売が持つ顧客トラフィックの規模にも差があるため、日本でも投資を正当化するだけの十分なROIを見込めるビジネスモデルをどのように構築するかが、各社にとっての論点となると見立てます。

 これら、「個人向け金融事業」「リテールメディア事業」は、あくまで事業領域の例ですが、リアル店舗での顧客接点を活用しているという点では共通しています。

<連載ラインアップ>
第1回 大企業を中心に“潜在的なM&A原資”が積み上がり中 大型の企業買収が予想される注目の業界は?
第2回 三菱商事、三井物産、住友商事、伊藤忠商事…なぜ今、総合商社はPEファンドとの戦略的連携を強めるのか?
第3回 ウォルマートの植物工場への4億ドル出資、ファミリマートの「ファミマシー」高効率実現のための差別化戦略とは
■第4回 小売業の海外展開の基本線は「M&A」、セブン-イレブンのスピードウェイ買収に改めて学ぶ「価値向上」とは?(本稿)
■第5回 脱炭素で不確実性を抱える電力市場…「火力発電」「再エネ」で考えるべきシナリオと事業のリスクマネジメントとは?(1月10日公開)
■第6回 大手電力7社が燃料調達の算定式を見直し 地政学リスクが促したリスクマネジメントの構造変化とIndexationの管理とは(1月14日公開)

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