日本最大の小売業グループ、セブン&アイグループが創業から続けているサステナビリティ(持続可能性)経営はどこが「すごい」のか。同グループがどのような目標を掲げ、それをどのような体制で実現しようとしているのか、「環境宣言」の当初からサステナビリティ推進部のシニアオフィサーを務める釣流まゆみ執行役員に話を聞いた。
地球環境や社会課題の解決に貢献し、中長期的な視点で企業価値を高めるため、積極的にサステナビリティ経営に取り組む企業が増えています。その一方、さまざまな問題から思うように進まない企業も多いようです。本特集では、サステナビリティ経営に取り組むキーパーソンへのインタビューにより、その成功要件を探ります。
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地域とともに進化するのがセブン&アイのサステナビリティ
――セブン&アイグループが考えるサステナビリティとはどのようなものですか。
釣流まゆみ氏(以下敬称略) セブン&アイグループは1920年に祖業の羊華堂からスタートし、現在の総店舗数は2万店を超えます。
ここまで成長できたのは地域のお客さまの困りごとを1つずつ解決してきたからだと思っています。
時代は変化していきますが、当社はこれからも実店舗を持つ強みを大切にしながら、地域の人たちに支持をいただける事業を展開していきたいと考えています。
これが当社のサステナビリティに対する基本的な考え方です。
環境宣言「GREEN CHALLEGE 2050」で推進する4つの取り組み
――サステナビリティのためにどのような取り組みを進めていますか。
釣流 2019年3月にサステナブル推進部が新設され、同年5月に環境宣言「GREEN CHALLEGE(グリーンチャレンジ)2050」を制定しました。これに当社の環境に対する取り組みが集約されています。
グリーンチャレンジ2050は、全国の店舗ネットワークとサプライチェーン全体でさらなる環境負荷低減を推進し、豊かな地球環境を未来世代につないでいこうという計画です。「CO2排出量削減」「プラスチック対策」「食品ロス・食品リサイクル対策」「持続可能な調達」という4つの具体的な取り組みを設定し、それぞれ2030年の目標と2050年の目指す姿を掲げています(図表参照)。
――4つの取り組みをどのような体制で進めているのでしょう。
釣流 事業会社の枠を超えた4つのイノベーションチームを立ち上げました。各チームのリーダーは、事業会社の執行役員以上の役職者が務めます。例えばCO2排出量削減であれば、リーダーはグループの中で店舗数が最も多いセブン-イレブン・ジャパンの建築設備本部長が務め、他の事業会社からゼネラルマネジャークラスが2人ずつサブリーダーとして加わります。そこに、さらに各事業会社の実務者などが参加する会議体が1つのチームとなっています。
チームのメンバーは、「プラスチック対策」は仕事で関係する人が多いので40人くらい、「CO2排出量削減」は30人くらい、そのほかのチームは20人くらいとなっています。そのメンバーが集まり、1、2カ月に1回ぐらいのペースでミーティングを開いています。
戦略投資を除く総投資額の5%以上を環境投資に
――予算はどれくらいかけているのでしょうか。
釣流 各事業会社に戦略投資を除く総投資額の5%以上を環境投資として予算化してもらう方針を立てており、2021~2025年度の環境投資額は約1250億円を予定しています。普段、店舗の建築を行う際にも環境に配慮した取り組みをしているので、それも含めれば実はもう少しかかっていると思います。
――事業会社に利益に直結しない投資をしてもらうのは、難しくはありませんでしたか。
釣流 「グリーンチャレンジ2050」はトップ(井阪隆一社長)の強い強い意志で始まったグループ全体の活動であり経営方針です。スタートする直前の2019年4月ごろ、各事業会社の社長に活動の意義を説明する目的で各社を回りました。当時の反応は「そんなにお金がかかるのか」というものでした。