店舗のバックヤードに設置する大型タッチパネルのマイボードは、連絡ノートや掲示板などのアナログな情報共有ツールに代わり、デジタルサイネージでチーム内の情報共有を行えるツール。AIワークでつくった勤務予定を表示したり、店舗の売り上げ状況や周辺の天候などを確認したりできる。営業数値やチラシ情報のほか、近隣店舗との比較や好調商品など、「改善のヒント」となる情報も常時更新。こうした情報をミーティングで共有し、売り場の配置を見直すなど販売促進につながる対策を機動的に打てる。

 小売りの現場でAI(人工知能)の活用が進んでいる。各社が加速するデジタルトランスフォーメーション(DX)は、スマートフォンで買い物客が自らコードを読み取ってレジ待ちなしで買い物が楽しめるシステムやデジタルサイネージによる最適な販促情報の発信など、来店客の対応が先行してきたが、人手不足が深刻化する中でバックオフィス業務での活用も急務になっている。

イオンリテールの「AIワーク」「MaIボード」「AIカカク」で生産性が向上

 総合スーパーのイオンリテールは、勤務シフトの作成をAIが支援するシステム「AIワーク」を全350店で導入した。手作業だったシフト管理や人員配置の時間を電子化で約7割減らす。売り上げ状況を共有して販売計画を立てるデジタルツール「MaIボード(マイボード)」も全店に導入する。

 AIワークは従業員のシフトや休みの希望、担当できる勤務内容などを入力すると、AIが最適な人員配置を自動で提案する。従業員は個人で持つスマートフォンから希望する勤務日などを提出。まずは担当従業員の多いデリカと食品オペレーション(品出し業務を部門横断で実施)から始め、今後は生鮮などその他部門にも導入を広げていく。

 従来は店舗の担当者が紙の勤務表などをもとに手作業で勤務計画を組んでいたが、従業員ごとの希望やスキルなどを考慮せねばならず、月に数時間を作業に充てる必要があったという。この作業時間を減らすことで売り場の管理など他の業務に従事でき、各従業員も自宅などからスマホで勤務希望を出せるので利便性が高まる。

 店舗のバックヤードに設置する大型タッチパネルのマイボードは、連絡ノートや掲示板などのアナログな情報共有ツールに代わり、デジタルサイネージでチーム内の情報共有を行えるツール。AIワークでつくった勤務予定を表示したり、店舗の売り上げ状況や周辺の天候などを確認したりできる。営業数値やチラシ情報のほか、近隣店舗との比較や好調商品など、「改善のヒント」となる情報も常時更新。こうした情報をミーティングで共有し、売り場の配置を見直すなど販売促進につながる対策を機動的に打てる。

 約12万人の従業員を抱えるイオンリテールは、「従業員の体験価値(EX)向上」という観点からもDXを加速している。今回の取り組みは、その一環。後方業務や単純作業に縛られない「より働きがいのある」職場を実現する取り組みを、顧客に提供する価値の向上にもつなげたい考えだ。

 同社執行役員システム企画本部長の山本実氏はデジタル技術を活用することで、「ムダ・ムリ・ムラの少ない適切な人員配置に近づけ、働いた分がきちんと成果につながる生産性の高い環境へと導きたい」と話すとともに、「人員を接客サービスなどの生産性の高い業務に振り分けることが可能になる」とし、省力化・省人化の視点ではなく、後方業務や単純作業に縛られない、より働きがいのある職場の実現が狙いだとの認識を強調する。

 属人化されがちな「現場の英知」を技術で補ったり置き換えたりする取り組みも始めている。イオンリテールは2021年7月、AIを使って適切な価格を決める「AIカカク」の仕組みも導入している。これまでの総菜の販売データなどをもとに、どのタイミングでどの程度の割引率に設定すれば売り切れるのかをAIが分析。店舗従業員がハンディ端末を総菜パックのバーコードに向ける姿があった(ある総菜が何個残っているのかをハンディに入力。すると割引率は「10%」などと表示される)。

 AIカカクの分析に用いるデータは多岐にわたる。気象情報やカレンダー情報、地域のイベント情報に加え、どの店舗で何時何分に売れたかを単品別に記録した販売データ、セール情報を基幹システムなどと連携して収集する。さらに売り場の従業員が、各商品が幾つ売り場に残っているかを入力する。これらを組み合わせ、客数予測と、1000人来店した場合の購入数を示す「PI値」を使って適切な割引率を算出する。

 ポイントは、割引率が総菜の在庫数に応じて変わることだ。こうすることで閉店時間までに売り切ることを目指している。これまで割引率は店舗従業員の経験で決められていた。AIカカクを先行導入した9店舗では、販売価格をどの程度変えたのかを示す「売変率」が2020年11月~2021年1月に、前の年の同期と比べ2割ほど改善した。

ローソンはAIで値引きと配送ルートの効率化

 コンビニエンスストアのローソンも店舗利益向上と食品ロス削減を目的にAI活用に着手し、6月28日から9月下旬までの期間、都内162店舗で「値引き実験」に取り組んだ。対象商品は弁当や常温寿司、おにぎり、調理パン、チルド麺、総菜、デザートなど約270SKU。各店舗・各商品別にそれぞれ何円値引きすると最終的に利益が最大になるかをAIが計算し、推奨する。

 値引き推奨回数は1日4回、値引き推奨時間は店舗による選択式で、値引き推奨データは直接ストアコンピューターに送り込み、店舗で値引きシールを発行して商品に添付。廃棄金額で約4%削減、粗利額約1%増を目指しており、今回の実験結果を踏まえて、2023年度中に全国展開を予定する。

 また、ローソンは店舗への配送もAIを活用して距離の短いルートに変える。現在はあらかじめ決めたルートで配送しているが、2023年度をメドに店舗の発注量や在庫状況をもとにAIが配送ルートを毎日組み替えるようにし、配送効率をさらに高める。

 同社は2020年から群馬県でAIが最適な配送ルートを作成する取り組みを開始。対象地域を兵庫県や愛知県、岩手県、宮城県などに順次拡大している。この取り組みにより対象地域の二酸化炭素(CO2)排出量が従来よりも約5%減り、倉庫費用や配送費などの物流コストも約6%削減。2025年2月までに配送のコストやCO2排出量を従来に比べて7%削減する。

スーパーマーケットで構築が進む自動発注の仕組み

 このほか、小売り各社ではAIを活用した自動発注も進んでいる。スーパーマーケット「原信」や「フレッセイ」などを運営するアクシアル リテイリングは、商品の需要予測用のAIエンジン開発を強化している。販売期間が短い日配品についてAIによる需要予測を使った自動発注システムを構築したのに続き、子会社でソフト開発を手掛けるアイテックが新たに開発。このAIは天候など多くの情報から需要を予測するのが特徴という。

 コープさっぽろは2021年2月から、IT企業「シノプス」のシステムを導入。発注作業の時間を6割削減した。これまで売れた分だけ発注する「セルワンバイワン方式」の自動発注を採用していたが、セールなどの場合は上下動が大きく人手による修正が必要になるため、AIによる需要予測型の自動発注を採用した。

 在庫を1時間に4回の頻度で確認するなど、きめ細かく、個々の商品がどの時間で売り切れたかも把握し、最適な発注量を調整する。例えば、卵が昼にいつも売り切れる店舗の場合、朝の段階でどの程度用意しておくべきかを踏まえて発注する。

 シノプスの自動発注システムもイオンリテールのAIカカクと同じく、客数予測とPI値を使い需要を予測する。乳製品や菓子といった商品カテゴリーごとにセールや曜日などがどれくらい販売に影響を与えるか、店舗の売り上げ規模ごとに選んだモデル店で検証を重ね、需要予測に影響する要素の係数の調整にはおよそ半年かけたという。

 西友も2023年7月をメドにシノプスのシステムを導入する。各店舗の日配品や加工食品、日用品など幅広いカテゴリーの発注業務の効率化・最適化のほか、需要予測データや特売情報を活用した物流センターにおける在庫最適化を図っていく。

 ディスカウントストアのトライアルカンパニーは2021年10月、AIで商品の欠品を検知するなど、先端技術を実証実験する店舗を福岡県宮若市に開業した。AIカメラやセンサーで冷蔵ケースに並ぶ商品の数量を常時監視。棚に取り付けた照明でいつ商品が欠品したか従業員に知らせる。売れ行きを把握し、効率的に発注できる。AIを活用した自動発注も検討している。

 AIは人間の脳の仕組みを参考にしたディープラーニング(深層学習)で大量に学習したデータから精度の高い結論を素早く導き出せる。少子高齢化で労働力不足が進む日本などでは、AIを活用してより付加価値の高い業務に専念できれば、生産性の向上の余地は大きいとみられている。

 グーグルの技術者で米国の発明家レイ・カーツワイル氏は2045年にAIが人間の知性を超えて加速度的に進化する転換点(シンギュラリティ)を迎えると予想しており、顧客体験と生産性向上の両面で活用が一段と広がりそうだ。