スーパーマーケットで構築が進む自動発注の仕組み

 このほか、小売り各社ではAIを活用した自動発注も進んでいる。スーパーマーケット「原信」や「フレッセイ」などを運営するアクシアル リテイリングは、商品の需要予測用のAIエンジン開発を強化している。販売期間が短い日配品についてAIによる需要予測を使った自動発注システムを構築したのに続き、子会社でソフト開発を手掛けるアイテックが新たに開発。このAIは天候など多くの情報から需要を予測するのが特徴という。

 コープさっぽろは2021年2月から、IT企業「シノプス」のシステムを導入。発注作業の時間を6割削減した。これまで売れた分だけ発注する「セルワンバイワン方式」の自動発注を採用していたが、セールなどの場合は上下動が大きく人手による修正が必要になるため、AIによる需要予測型の自動発注を採用した。

 在庫を1時間に4回の頻度で確認するなど、きめ細かく、個々の商品がどの時間で売り切れたかも把握し、最適な発注量を調整する。例えば、卵が昼にいつも売り切れる店舗の場合、朝の段階でどの程度用意しておくべきかを踏まえて発注する。

 シノプスの自動発注システムもイオンリテールのAIカカクと同じく、客数予測とPI値を使い需要を予測する。乳製品や菓子といった商品カテゴリーごとにセールや曜日などがどれくらい販売に影響を与えるか、店舗の売り上げ規模ごとに選んだモデル店で検証を重ね、需要予測に影響する要素の係数の調整にはおよそ半年かけたという。

 西友も2023年7月をメドにシノプスのシステムを導入する。各店舗の日配品や加工食品、日用品など幅広いカテゴリーの発注業務の効率化・最適化のほか、需要予測データや特売情報を活用した物流センターにおける在庫最適化を図っていく。

 ディスカウントストアのトライアルカンパニーは2021年10月、AIで商品の欠品を検知するなど、先端技術を実証実験する店舗を福岡県宮若市に開業した。AIカメラやセンサーで冷蔵ケースに並ぶ商品の数量を常時監視。棚に取り付けた照明でいつ商品が欠品したか従業員に知らせる。売れ行きを把握し、効率的に発注できる。AIを活用した自動発注も検討している。

 AIは人間の脳の仕組みを参考にしたディープラーニング(深層学習)で大量に学習したデータから精度の高い結論を素早く導き出せる。少子高齢化で労働力不足が進む日本などでは、AIを活用してより付加価値の高い業務に専念できれば、生産性の向上の余地は大きいとみられている。

 グーグルの技術者で米国の発明家レイ・カーツワイル氏は2045年にAIが人間の知性を超えて加速度的に進化する転換点(シンギュラリティ)を迎えると予想しており、顧客体験と生産性向上の両面で活用が一段と広がりそうだ。