コロナ禍を契機に、店舗ではタッチパネルでの注文などデジタル技術の導入が推し進められている。
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 飲食店で配膳ロボットがオーダーした料理をテーブルまで運んで来てくれる。眼鏡店の店頭にあるタブレットの前に立つと、AIが自分の顔をスキャンして分析し、自分に合ったメガネを提案してくれる。スーパーではカートの中身からメニューやお買い得品を提案し、コンビニでは店内に設置されたディスプレーからアバター店員がセルフレジの操作方法を教えてくれる。デジタル技術を活用した店舗体験は、いまやわれわれの日常生活に浸透しつつあります。

 こうした店舗DXに関する企業の取り組みは、コロナ禍を契機に小売業やサービス業において進展し、業務プロセスの改善や顧客体験の向上に寄与しています。本稿では、店舗DXを取り巻く環境と、推進における課題について、事例を取り上げながら解説します。

コロナ禍の功罪──意図せざる店舗DXの推進

 2019年12月、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が中国で初めて確認され、その後、世界的な大流行(パンデミック)となりました。日本では、2020年4月16日に政府が全都道府県に対し「緊急事態宣言」を発令し、まん延防止のため外出自粛要請や飲食店などの営業時間の短縮要請が行われました※1。今となっては懐かしさにも似た不可思議な感覚を覚える人も多いのではないでしょうか。

 さて、当時の話に戻りましょう。COVID-19の影響により、日本における2020年度の小売業販売額は、146兆4570億円で前年比-3.2%となり※2、サービス業の月平均売上高は28兆7367億円で前年比-10.2%※3と大きく落ち込みました。当然のことながら、小売業やサービス業は対応を余儀なくされ、電子商取引(EC)やデリバリーサービスといったデジタル技術を活用した手法が広がりました。

※1:日本経済新聞「緊急事態宣言とは 特措法に基づき政府が発令」2021年1月4日(https://www.nikkei.com/article/DGXZQODG0213N0S1A100C2000000/)
※2:経済産業省「2020年小売業販売を振り返る(前編);コロナ禍で激変した小売業販売。全体では4年ぶりの減少だが、業種・業態毎に明暗が大きく分かれた」(https://www.meti.go.jp/statistics/toppage/report/archive/kako/20210409_1.html)
※3:総務省統計局「サービス産業動向調査年報2020年(令和2年)」(https://www.stat.go.jp/data/mssi/report/2020/pdf/summary.pdf)