電通 サステナビリティコンサルティング室 部長 堀田峰布子氏

 多様な人材が集まる電通グループにおいて、ひと際異彩を放つのがサステナビリティコンサルティング室部長の堀田峰布子氏だ。大手電機メーカーでプロダクトデザイナーとして活躍した後、転職を重ねて自らのスキルマップを充実させてきた。これまでのキャリアに電通グループが誇る「伝える力」を掛け合わせて、サステナビリティの領域の中でもサーキュラーエコノミーの分野をリードしている。堀田氏が考案した「サステナブルロードマップ」を中心に、電通グループが提供するソリューションの特徴や強みについて語ってもらった。
(聞き手:Japan Innovation Review編集長 瀬木友和)

「つくる時」から「伝える」ことを意識しないと、生活者の支持は得られない

──多様な人材が集まる電通グループの中でも、堀田さんのご経歴は非常にユニークだそうですね。これまでのキャリアと電通に入社した理由についてお聞かせください。

堀田峰布子氏(以下敬称略) もともと大手電機メーカーでプロダクトデザイナーをやっていて、その後、通信事業会社など3社を経験しました。専門領域は「通信×デザイン」です。最初の電機メーカーではデザインを専門にしていましたがそれ以外にもプロモーションやPR、ブランディングなどもやってみたいと考え、転職を重ねてきました。

 その後、グローバルメーカーでプロダクトブランディングとマーケティングコミュニケーションのマネージャーを経て電通に入社したのですがこれまでのキャリアの中で良いプロダクトやサービスをつくったとしても、もはや使ってもらえる、買ってもらえる時代ではなくなったことを痛感したことがあります。

 つくる時から伝えることを考えたり、伝えることから逆算してものづくりをすることができれば大きく変わるのではないか。「伝える」ことに今まで自分が培ってきた「つくる」を掛け合わせるとすごく強いのではないかと思い、日本で一番伝えるのが得意な会社ではないかと期待して、電通に転職しました。

──今年1月にできたサステナビリティコンサルティング室の部長も務めていますが、現在の役割、ミッションは。

堀田 サステナビリティコンサルティング室に移る以前から手掛けているサステナブルビジネスのデザインが大きな役割の1つです。サステナブルビジネス・デザインでは、社会貢献性と事業性を両立させていくことが非常に重要ですが、私自身のこれまでのキャリアのピースがそろったことで、そうした領域のリアルなご支援が可能になりました。

 例えば、私が専門としているサーキュラーエコノミーでは、サプライチェーン全体を再構築する必要がありますが、ドメスティックメーカーとグローバルメーカーの双方にいて、いろいろなものづくりの現場を知っていることが大きなメリットになります。また、素材選びも重要なポイントですが、プロダクトデザイナーとしての経験、ノウハウがプラスに働いています。

サステナブルシフトは理解しているが、いつ始めるべきか分からない

──改めて、サーキュラーエコノミーについて、簡単に解説をお願いします。

堀田 サーキュラーエコノミーは、従来のリサイクルエコノミーをさらに推し進めた「廃棄を前提としないビジネスモデル」と言われます。言葉自体はいろいろなメディアに取り上げられていますが、日本の認知度は欧米先進国と比べてまだまだ低いのが現状ではないかと思います。それでも、認知度が低い一方で、その内容を聞くと「共感度」が高いことから、日本という国や企業が持っているポテンシャルは高いと言えます。

(図1)サーキュラーエコノミーの浸透度  ※出典:電通・電通総研「サステナブル・ライフスタイル意識調査2021」
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 サーキュラーエコノミーの全体構成は図2の通りです。サーキュラーエコノミーの構築は自社内だけでは完結することができず、①製造メーカーなどの動脈産業、②回収・リサイクルなどの静脈産業、③サステナブル素材を扱う素材産業、④生活者や企業などの使用者といったさまざまなステークホルダーとの協業・共創が前提となります。

(図2)サーキュラーエコノミーの全体構成とステークホルダー
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 サーキュラーエコノミーの構築を目指す際、4つのポイントが重要になるとわれわれはお伝えしています。1つ目は、循環の視点を持つこと。2つ目は、利用者からの回収網を構築すること。3つ目は、自社自前にこだわらず、他社と協業して進めること。そして4つ目が、社内外への発信を行い、生活者の参加を促すことです。日本企業は特に3点目、4点目が不得意だと言われがちなのですが、それらを意識しながらご支援させていただいています。

──サーキュラーエコノミーに関して、企業からどんな悩みや相談がありますか。

堀田 「サステナブルシフトをすべきだということは理解しているが、いつアクセルを踏むべきかで悩んでいる」という声を非常に多くいただきます。例えば、製造業の場合、工場や工程、素材を変えないといけないとなると、どうしても大きな投資になってしまいます。自社以外にも他社や国内外の大きな動向も気にしないといけませんし、自社のパーパスとの整合性や生活者の心理や行動の変化も考慮しないといけない。それらを総合的に判断して、ここぞというタイミングでボタンを押さないといけないのですが、それが「いつ」なのか分からない。その結果、いつまで経ってもなかなか実行フェーズに進まないというのです。

──そうした企業に対して、どのようなサービス、ソリューションを提供しているのですか。

堀田 「サステナブルロードマップ」を活用して、企業のサステナビリティ経営をサポートしています。これは何かというと、マクロトレンドから、電通グループが得意な生活者視点までを一覧でまとめたサステナブルビジネスのサポートツールです。

(図3)サステナブルロードマップの掲載項目
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 マクロトレンドとは、国内外のサステナビリティをめぐる動向や法令・規制、素材や技術のトレンド、業界・他社動向のことで、これに生活者の価値観・行動変容を合わせて上下に並べて、横軸に時系列の変化を加えることで、いつまでに自社はどのような製品・サービスを世に出していくかという“道しるべ”となるものです。

 世界の動向を見ているのはグローバルな部署かもしれないし、日本の法令動向を見ているのは法務部かもしれない。技術トレンドは研究開発やエンジニアリングの部署かもしれないし、業界・他社動向を見ているのは経営企画部だったり、商品企画部かもしれない。生活者の動向を見ているのはマーケティング部……といった具合に、項目ごとに見ている人たちが違うことが想定される中で、それが一覧できて、ロジカルに説明できるロードマップがあれば合意形成が進むのではないかと思い、開発したツールです。もともと私はメーカーにいたので、「こういうのがあったら便利だろうな」と思ったことが発想の起点でもあります。

 世界的なサステナブルの動向や法令・規制を押さえるには、EUをウオッチしておく必要があります。それは、EUは自国産業の利益創出のためにいち早くルールメイクをすることに長けているということがあります。さらに日本では、EUから3~5年程度遅れてサステナブルの法令・規制を採用されることが多いため、EUを見れば日本の3~5年後の動向がある程度予想できます。

 ですから、「いつアクセルを踏めばいいか分からない」という企業に対しては、「まずEUを見ましょう」と言っています。

──A3用紙1枚に収まっているところが、シンプルだけどすごい“発明”です。どんな使い方ができるのですか。

堀田 4つの基本的な使い方があります。1つ目は、大きな流れを俯瞰して、「潮流を把握」すること。2つ目は、自社のサステナブルな取り組みのこれまでとこれからをクライアント自身が棚卸しする「現状認識」。3つ目が、潮流や関係トピック、生活者動向などから新たなアイデアを「発想」すること。そして4つ目が、新しい商品・サービスについて、時系列を加味した「戦略」をつくることです。

「なぜここに、この商品・サービスがプロットされているのか?」と経営層に聞かれたら、例えば、「EUの法律を起点に、日本の法律は次にこうなります。技術としてはこういうものがピックアップできているので、だからこそ、この商品はこのタイミングであるべきです」といった必然性を説いて合意形成に活用することができます。

 ロードマップなので、1回アクションするだけでなく、何度も立ち返り駆動推進するためのツールとして活用することも可能です。

 現在、日用品、食品、住宅、家電などの業界について標準フレームを用意しています。今後は、産業の共有基盤となるエネルギーやプラスチックなど素材そのものについてもフレームの用意を検討しているほか、例えば食品とプラスチックのフレームを組み合わせて、食品の包装材の同時検証も可能にすることも考えています。

多様性から生まれるクリエイティビティこそ電通グループの強さ

──電通グループにおけるサステナビリティコンサルティングの強みは何でしょう。堀田さんというユニークなタレントはもちろんですが、組織としての強みといったときに、何だとお考えになりますか。

堀田 多様性でしょうか。電通グループに転職して、すごく大きな魅力の1つだなと思ったのが多様性。つまり、均一的ではないということから生まれる、突き抜けた新しいアイデア、クリエイティビティです。私がこれまで経験してきた企業と比較しても、やはり“異種交雑感”の強さを感じます。

 多様な経験と専門性を持った人材がいて、サステナビリティという社会課題に対して、さまざまなアプローチを提案できることがわれわれの強みだと考えています。

 サーキュラーエコノミーに関しては、バリューチェーンの川上から川下までを一貫して担うことのできる機能がグループ各社にあり、最新の素材調達や製品開発が可能な「つくる力」があることや、いろいろな人や企業を「つなぐ力」、取り組みを社内外に「伝える力」が大きな優位性となっています。

──今後の展望を伺います。堀田さんが個人的に取り組みたいと考えていることがありましたら教えてください。

堀田 元々、通信業界に長くいたこともあり、サーキュラーエコノミーのDXをやってみたいなと思っています。例えば、現在、店頭でプラスチック製品や古着を回収したりしていますが、現状は、アナログで、データがほとんど取れていません。そこからデータが取れるようになると、「モノと情報」が循環して、新しいビジネスを創出したり、マーケティングが可能になったり、生活者の参加も更に促せるようになると考えています。

(図4)サーキュラーエコノミーのDX

 非常に興味深い調査データがあって、生活者の多くは、自分が回収行動に参加して、そのモノがその後どうなるのかを知りたいと思っているのに、どうなるかが分からなくて不満を持っているとか、自分の行動によって実際にどれだけCO2が削減できたのかを知りたいと思っている人が意外と多いということです。

 データを活用すれば、生活者が回収行動に参加したくなるような仕掛けを、金銭的インセンティブと非金銭的インセンティブの両面から考えることもできるでしょう。

 当然、個別企業の取り組みだけでは限界がありますから、サプライチェーン全体に関わる全ての企業や生活者も巻き込んでいかないといけませんし、行政や自治体とも連携しながら、社会課題の解決につながるようなサーキュラーエコノミーのインフラプラットフォームを構築していく必要があります。

 壮大なプランではありますが、これを実現することによって、お客様の事業成長への貢献と「B-to-B」のさらにその先にあるS(ソサエティ)と向き合う「B2B2S (Business to Business to Society) 」企業グループへの進化を体現できればと思います。

インタビューを終えて
Japan Innovation Review編集長 瀬木 友和

 ただでさえ多彩な人材がそろう電通グループにおいて、ひと際ユニークな人材が集まっているのがサステナビリティコンサルティング室だ。なかでも異彩を放つのが堀田氏だろう。

 堀田氏の“発明”ともいえるのが本文中で取り上げた「サステナブルロードマップ」だ。サステナビリティに関する法令や規制は国や地域によって異なる。かつ、日々めまぐるしく変化している。素材や技術のトレンドも日進月歩だ。それらの動向をまとめたレポートは、多くの外資系コンサルティングファームやシンクタンクが発信しているが、大半は数十ページに及ぶ大作であり、読み解くだけでもひと苦労。日々の業務をこなすビジネスパーソンのうち、きちんと読破し、要点をインプットする余裕がある人が果たしてどれほどいるだろうか。多忙を極める経営者であればなおさらだろう。

 翻って、堀田氏が開発したサステナブルロードマップは「A3・1枚」。1枚にまとまっているからこそ、社内の多様な関係者との合意形成にとてつもない効果を発揮する。堀田氏曰く、「メーカー時代の自分に照らし合わせて、こんなものがあったらものすごく便利だなと思ったんです」というから、まさに異色の経歴を持つ堀田氏の面目躍如だろう。

 さて、電通グループのコンサルティングサービスのキーパーソンをインタビューする本シリーズも今回で2回目。やはり今回も、他の多くの外資系コンサルティングファームとは全く違う「何か」を感じさせられる体験となった。

 私は堀田氏に率直にぶつけてみた。「その“何か”をあえて言語化してもらえますか?」と。すると、堀田さんからまさかの回答が・・・!

 「私も分からないですよ(笑)」と。分からないけど“何か”がある。だから堀田氏はその“何か”を「魅力X(エックス)」と呼んでいるらしい。電通グループの人たちが持つ「魅力X」とは何か、本シリーズでは引き続きそれを探っていきたい。

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