電通は2023年1月付けで、新組織「サステナビリティコンサルティング室」を発足させた。「電通グループがなぜ“サステナビリティ”の“コンサルティング”なのか?」という疑問を持つビジネスパーソンもいるかもしれない。あるいは、「その他のコンサルティング会社とどう違うのか」と訝(いぶか)しむ人もいるだろう。果たして、電通グループに寄せられるサステナビリティに関する相談にはどのようなものがあるか。それに対し、どのようなソリューションを提供しているのか。そして、電通グループのコンサルティングサービスの特徴や強みはどこにあるのか。2人のキーパーソンに聞いた。(聞き手:Japan Innovation Review 編集長 瀬木友和)
戦略は作ったが、動かないのはなぜか?
――電通の中にサステナビリティコンサルティング室が発足した経緯について教えてください。
吉羽優子氏(以下敬称略) サステナビリティ経営の推進が必須となる一方で、企業の皆さまからは「戦略は作ったが、実施が付いてこない」「実施にたどり着いたものの、単発にとどまる」といった声がよく聞かれました。
有効なアクションに結び付かない一番の理由は、合意形成の難しさです。サステナビリティは総論賛成を得やすいのですが、一方で短期利益と中長期利益、経営と現場、部署と部署の壁など、さまざまな対立と分断が起きがちなテーマであるからです。
まずその合意形成を図るところで、私たちはお客さまのビジネスや変革をお手伝いできると考えました。電通グループはもともと、広告・コミュニケーションの領域において、広い視野で顧客企業のポテンシャルを発掘することを強みとしてやってきました。そのアプローチを生かして、顧客企業の独自の価値となるようなサステナビリティの可能性領域を発掘し、拡張していくことで、サステナビリティを「やるべき」ものから、「やりたい」「示したい」ものへと転換していくことをご支援しています。
――サステナビリティ経営は、今「3.0」にあると認識されているそうですね。
吉羽 マテリアリティ(重要課題)を整備し、ガイドラインを作って、情報開示するのがファーストフェーズ。自社のあるべき姿を“北極星”としてパーパスを定め、個別アクションの棚卸しと整理をし、IRへ展開するのがセカンドフェーズだとすると、今がサードフェーズです。実際に動かしていくフェーズなのですが、なかなか動かないし、変わらないのが現状です。
――「実践することの難しさ」とも言えそうですが、企業からはどんな声が聞こえてきますか。
三笘亜樹氏(以下敬称略) ファーストフェーズで掲げた目標は、経営部門が策定しているケースが多く、現場は出来上がったものを聞かされるだけで、実際の事業に落とし込んでいく時に、実務と乖離していたり、事業の根本を覆すような話もあり、戸惑っているという声は聞きます。
ただ、私が向き合うお客さまは、前向きに取り組まれている方が多いイメージです。サステナビリティは社会全体の課題であると同時に、生活者としても必要不可欠な視点であることを感じ取っているからかもしれません。実生活において、そうした経験を持っている人は、自分の仕事に落とし込んでいくときのモチベーションも違うはずです。サステナビリティを自分ごと化しながら、自分たちが世の中に出していく商品やサービスに、いかにその要素を取り入れようかと腐心されている。そんな印象を持ちます。
――物事を動かしていくには自分ごと化は重要なポイントです。どうすれば自分ごと化できますか。
吉羽 やはり自分の会社のこういうところって素晴らしいよねと思えるとか、こういうことだったらがんばって世の中に伝えていきたい、評価してもらいたいと思えるような動きをつくっていくことだと思います。それが先ほど申し上げた、ポテンシャルを見つけて、拡張していくという、私たちのアプローチでもあります。その信念があれば、仮に異論や反論が出ても、大きな意味では自分がいる会社の素晴らしさを感じながら、サステナビリティに取り組めると思います。
三笘 現場を動かすときには、やはり経営トップのコミットメントが重要だと思います。目指すところを経営トップが言ってくれると、そこに向かって自分たちは何をすればいいんだと現場は考えるようになります。
コンサルティングにおける電通グループらしさとは
――企業内の合意形成に向けて、どのような手法やソリューションを提供されているのですか。
吉羽 大きく2つのアプローチがあります。1つは、企業がもともと持っているポテンシャルに着目し、そこから魅力的な戦略と勝ち筋を描くポテンシャルドリブンのアプローチです。もう1つは、サステナビリティの活動を社内外に拡張し、幅広いステークホルダーからの賞賛と応援を得ることで、我慢してやるものから、誰もが参加したくなるものに変えるポジティブ転換のアプローチです。
そして、この2つのアプローチに沿って、6つのフェーズから成るソリューション群を用意しています。
一例として、「課題探索・機会発掘」フェーズのツールを紹介しましょう。統合諸表と呼ばれるもので、企業のパーパスを中心に置きながら、さまざまなステークホルダーに向けてのアクションを、一連の価値創造ストーリーになるような形で、お客さまと一緒に考えていくというフレームです。
ワークショップ形式で議論しながら、まず経営陣の皆さんと合意し、それに基づいて活動の内容を検討していくものです。
ポイントは、財務の観点だけではなくて非財務の観点も取り入れていることと、事業だけでなく、社員、社会、環境についても考慮した上で、全ての企業活動がマテリアリティやパーパスに収斂するよう流れやストーリーが作られることです。
――戦略の策定から実行まで一貫して支援していく中で、特に入り口と出口で電通グループとしての強みを発揮していくということですか。
吉羽 まさにその認識です。アクションを開発したり、実行を支援したりすることは、他のコンサルティング会社さんでもできると思いますが、そこを含めて一気通貫でできることを私たちは大切にしています。また、大事なことを言って終わりというのではなくて、お客さまや生活者の皆さんから賛同を得るところまでやって初めて電通グループらしさと言えると考えています。
――改めて、外資系コンサルをはじめとした競合他社との違いとは何だとお考えになりますか。
三笘 最後までやり切ることを重視する姿勢は、他のプレーヤーよりも強いのではないかと思います。
吉羽 今、「8ウェイズ」といって、電通グループとしてグローバルで大事にしたい8つのバリューをまとめたものがあるのですが、その中の1つに「WE MAKE IT REAL」とあります。つまり「実施して成果を上げるのが私たち」だと。それが大事だなと、改めて実感しています。
どこまで行っても、私たちはクライアントファーストですし、その先には、やはり生活者目線であるとか、関わるステークホルダーの方々の気持ちを動かすところに意識が向いています。気持ちが動かないものは、やり切ったとは言えない。少なくとも私はそう思ってやっています。
三笘 生活者目線は私も大事しています。特にB to C向けに商品・サービスを提供している企業に対しては、その視点はぶらさないようにしています。「課題探索・機会発見」や「ゴール設定・合意」という入り口のフェーズでご支援させていただく場合も、出口のアウトプットを想定した上で、生活者目線を持って考えるようにしています。
一方で、生活者の今いる時点だけで考えてしまったのでは、目まぐるしく変わる社会の変化に対応できませんから、今の時点ともう少し先を見据えて考えるようにしています。
――先ほど、価値創造のストーリーというキーワードがありました。電通グループの出自は広告ビジネスです。サステナビリティのコンサルティングサービスを手掛ける際にも、最初に一気通貫したストーリーを構築し、生活者・従業員・株主といった各ステークホルダーの心を動かし、行動につなげていくという点で、長年の広告ビジネスで培われたものが強みになると感じたのですが、いかがでしょうか。
吉羽 ご指摘の通りかもしれません。ストーリーが流れていないと伝わらないことは、商品レベルでも、ブランドレベルでも、企業レベルでも同じことです。全てを文脈としてつなぎ、企業の価値を最も発揮できるストーリーに仕立てていくことは、私たちのコンサルティングの大きな特徴です。生活者目線から入ってストーリーを作ることもありますし、企業によってはそうでないケースももちろんあります。
もう1つ、企業ごとにポテンシャルを発掘すると同時に、独自の成長の形もあるはずで、その成長ストーリーをきちんと描き切ることをしっかりやっていこうとみんなと話し合っています。
三笘 多くのコンサルティング会社は、その会社に特有の「考えるフレーム」や「一定の型」を持ち、それにのっとってコンサルティングを提供することが多いと思います。私たちにももちろんありますが、クライアントファーストという元来のマインドがあるため、企業の状況によっては、いったん“型”を脇に置いて、個社ごとに対応することが多いかもしれません。それには時間がかかるため、私たち自身のビジネスの効率性という観点からは決して良いとは言えないかもしれません。けれど、それでも私たちはその選択を行います。それこそが、電通グループらしさだと思うからです。
サステナビリティの取り組みをストーリーからブランドへ高めるには
――ストーリーとも関連しますが、日本企業のサステナビリティ経営におけるブランディングは、欧米企業に比べて弱いとも言われますが、その辺りはどうご覧になりますか。
吉羽 どういう思いや価値、機能などが商品・サービスに込められているか。それによって初めてブランドの根幹が決まっていきます。これは全くの私見ですが、海外の企業はものすごく時間をかけてブランドについて議論をしますが、日本企業はその辺りが少し弱いかもしれません。また、ブランドを議論するレイヤーも、日本と海外では違うのかもしれません。
三笘 そうかもしれません。グローバルではトップがブランドについて議論するケースが多いように思います。
――最後に今後の展望について伺います。お二人が今後やってみたいことがありましたら、合わせて教えてください。
吉羽 クライアントとは別に、協力会社などを含めて現場で社会課題に向き合っている団体の皆さんともお付き合いしています。彼らと話をしていると、世の中にはこんなに解決すべき課題というか、みんなが知るべき課題があるにもかかわらず、小さな問題と見なされて、置き去りにされているケースが多くあります。
サステナビリティの考え方が浸透している今だからこそ、そうした社会課題と大企業をつないでいくことで、より良い社会の実現に貢献していきたい。まずは、サステナビリティコンサルティング室としての活動をがんばりつつ、橋渡しの役目を果たしていくことを個人的には考えています。その取り組みが、ひいては電通グループが掲げる「B2B2S(Business to Business to Society)企業」への進化につながるものと信じています。
三笘 サステナビリティコンサルティング室には、ビジネストランスフォーメーション(BX)やDXをサポートするチームのほかにも、クリエーティブチーム、PRチームがあり、デジタルやシステム領域の知見を持った人材もグループ会社から数多く出向しています。専門性の高い人材が1つの組織に結集し、ワンストップでソリューション提供できることは、当社としては珍しく、私自身、そこに魅力を感じているところです。
個人的な思いとしては、社会課題を「人」起点で解決に向けたアプローチをすることが多いことから、今後も人々の暮らしや従業員の環境に寄り添い、「人」が動く設計で、企業の成長とその先の社会・環境への同時貢献を果たしていきたいと考えています。
インタビューを終えて
Japan Innovation Review 編集長 瀬木 友和
インタビューに臨む前、私が最も知りたかったことは、「電通グループのコンサルティングは、その他のコンサルティング会社のそれと何が違うのか」という点でした。近年、多くのコンサルティング会社が「戦略立案」から「実行支援」まで一貫して行うことを喧伝しており、事前情報では電通グループのコンサルの“売り”もそこだと聞いていたからです。
果たして、その疑問は、インタビューの中で拍子抜けするほどあっさりと解消しました。インタビュー記事の本文では文語体で表現したため、ここではあえて口語体で記します。
私の「どこのコンサルも実行支援まで行うとアピールしていますが、電通グループのそれは他社とどう違うんですか?」の問いに、吉羽氏はあっけらかんとした口調で話してくれました。「大事なことだけ言って終わりっていうのは、やっぱり“電通(グループ)っぽくないじゃん”って思うんですよね」、と。隣に座る三笘氏の目を優しく見つめながら話す吉羽氏からは、一片の気負いも衒(てら)いも感じません。三苫氏も目を細め静かに深く頷きながらこれに応じます。
私はその二人の姿に、電通グループの皆さんが根っこの深い部分で共有している価値観のようなものを見た気がしたのです。“クライアントファースト”で、“最後まで寄り添う”という意識が、現場の社員一人ひとりに沁み込んでいる様(さま)はまさに企業文化そのもの。それは、長い年月をかけて形成されるものであり、一朝一夕につくれるものではありません。これこそがこのインタビューの最大の問いである「電通グループのコンサルティングは何が違うのか」に対する明快な答えになるのではないでしょうか。
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