写真:beeboys - stock.adobe.com

 スギ薬局は、主に中部・関西・関東エリアで1525店舗(2022年10月末時点のスギホールディングス全体の店舗数)を展開している大手ドラッグストアチェーンである。

 同社は、2022年度を初年度とする中期経営計画(2026年度までの5カ年を対象)で売上高1兆円企業となることを目標としている。そして、この目標達成に向けての取り組みの1つとして「DX活用による顧客体験の変革」を挙げている。

 同社は、トータルヘルスケア戦略などのDXの取り組みを掲げ、既に2021年2月にDX認定を受けている。そして、同年3月に発足したDX戦略本部が小売業としての基幹システム(商品管理・レジ等)を担当するとともに、デジタルマーケティング、物販DX、ビューティ・ウェルネスDX、医療・調剤DX支援など多面的なDXを推進している。

 ここでは、同社がDXで目指すトータルヘルスケア戦略のためのリアルとデジタルの展開や、デジタルCRM基盤の構築、店舗内外の購入時のデジタル活用などについて見てみたい。

【ドラッグストアとしての顧客戦略】 トータルヘルスケア戦略

 同社のトータルヘルスケア戦略は、顧客のセルフケアから介護・生活までをリアルとデジタルを融合させて支援する取り組みである。ここでは、その戦略での顧客との接点作りや収益構造を「健康状態×ライフステージ」の視点でとらえてみたい。

 まず、健康状態に応じたサービスにより顧客接点を広げることを目指している。顧客がどのような健康状態であっても接点を持つことにより、それぞれのステージで個々の状態に合わせたリアルとデジタルを融合させた最適な商品・サービスを提供する。

 リアル面では、店舗内の「ウェルネススペース」で管理栄養士による健康相談や生活習慣病リスクレポートを活用した特定保健指導を実施し、より快適で健康的な生活を送るための支援を行っている。

 デジタル面では、健康づくりのために、歩数記録アプリ「スギサポwalk」を2019年から提供している。このアプリは歩くだけでマイルがたまり、健康にもつながる「手軽さ」と「お得さ」(たまったマイルはスギ薬局のポイントと交換可能)や、観光地をバーチャルに巡ることができる「楽しさ」から利用者を増やしていて、今年9月に250万ダウンロードを突破。そして、この「スギサポwalk」で蓄積したライフログを基盤に、各企業とタイアップしたキャンペーンや情報発信などで、各利用者の健康状態に応じた疾患啓発を可能にする「疾患啓発プラットフォーム」としての取り組みも始めている。また、2022年には「スギサポeats」(食事記録アプリ)を利用した「食事指導サービス」も開始と、リアルとデジタルの両面で顧客接点を広げ、関連サービスに結び付けている。

 ライフステージに関しては、「就職・独立→結婚→出産・子育て→シニア期」という長期的な顧客接点を継続してもらえることを目指している。その中で、特に「出産・子育て」期は最大購買層となることから物販では重要視し、その時期までに、かかりつけ薬局にしてもらうなどして顧客を囲い込むことができれば、「シニア期」でも接点の継続が期待できるため、シニア向けサービスや調剤の収益につなげることが可能になる。

 スギ薬局はこのようなドラッグストア特有の長期的な戦略で、顧客生涯価値(LTV)を高めることを狙っている。