2006年の千葉県船橋市への出店から、2023年現在、北は仙台、南は福岡まで12の一般向け店舗を展開するほど成長し、日本におけるスウェーデンのイメージを大きくアップさせたのが、イケアだ。北欧デザインを想起させるシンプルなデザイン、国内家具メーカーと比較しても競争力がある低価格、「そのために行く」と言わしめるレストラン、イケアに行くことが楽しいとまで言うファンの存在など、イケアの存在は日本国内でも異彩を放っている。こうしたイケアのうらやむほどの成長に、同社のパーパスはどう関わっているのだろう。「企業は人」の基本に返り、イケアのパーパスがどう人材を育てているかを聞いた。
イケアのパーパスとバリューを知る
まず、イケア・ジャパンで人事を担当しているカントリー・ピープル&カルチャー・マネジャーの朝山玉枝氏にイケアのパーパスを紹介してもらった。すると、「イケアには『より快適な毎日を、より多くの方々に』(To create a better everyday life for the many people)というビジョンがあり、これがいわゆるパーパスにあたります。そして、これはイケアの8つのバリュー(価値観)からきています」と朝山氏は簡潔に語る。
「より快適な毎日を、より多くの方々に」というイケアのパーパスは読んで字のごとしだが、より深く理解するために、併せてイケアの8つのバリューを紹介したい。全て同社のサイトに掲載されている(以下は、原文を省略した内容。正確には、こちらを参照されたい)。
・連帯感(Togetherness):イケアカルチャーの中心。互いを信頼し、同じ方向に向かって努力し、一緒に楽しむとき、私たちは強くなれます。
・環境と社会への配慮(Caring for people and planet):よりサステナブルな方法で原料を調達し、製造された商品を販売し、人々が家庭でよりサステナブルな生活を送れるサポートをしていきます。
・コスト意識(Cost-consciousness):品質に妥協せず、より少ないものからより多くのものを生み出すために、あらゆる場所で不要なコストを見つけて取り除くために最善を尽くしています。
・簡潔さ(Simplicity):簡潔さ、率直さ、堅実な姿勢はイケアの伝統です。イケアにおける簡潔さは「効率性」と「簡単にできることを行う」ことを意味します。
・刷新して改善する(Renew and improve):私たちには不可能なことはありません。不可能と思われる課題の解決策を見つけることが、イケアを成功に導きます。
・意味のある違うやり方(Different with a meaning):イケアはほかの企業とは似ていません。ほかの企業のようになりたいとも思いません。イケアは、好奇心や情熱、よりよい世界にする強い思いに駆り立てられ、休むことなく行動を続けています。
・責任を与える、引き受ける(Give and take responsibility):イケアでは、働き始めて間もない人に、あえて大きな責任を伴う業務をまかせます。私たちは、人々に権限を与えること、そしてそれにより成長する意欲のある個人の力を信じています。
・手本となる行動でリードする(Lead by example):イケアでは、ポジションにかかわらずリーダーシップを私たち全員がとるべき行動と考えます。「有言実行」し、手本となる行動でリードすることが大切です。
この8つのイケアバリューは、創立者のイングヴァル・カンプラード氏が1976年に記した「ある家具商人の言葉(The Testament of a Furniture Dealer)」という冊子から生まれている。冊子の冒頭には、イケアのパーパスである「より快適な毎日を、より多くの方々に」が太字で記載されており、イケアの社員に知ってほしいこと、目指してほしいことがA4、39ページ、英語約4万5000文字で書かれている。*1
*1:英語版はこちら
パーパスとバリューは、常にイケアのコワーカー(従業員)のそばにいる
日本でイケアに入社すると、この「ある家具商人の言葉」と「イケアバリュー」の2冊が、イケアを知る術として日本語版が共有される。それを読み「これをどう思う、どう感じるっていう勉強から始まるんです」と朝山氏は、イケアへの入社はパーパスに触れることから始まると紹介する。
その読みこなしに関しては、最初は新入社員皆で読み、内容を確認し、いろいろ語り合うが、その後は、実際の日々の業務の中で、パーパスやバリューを意識することで、体の中に染み込ませていく。