しまむらの「一人当たり粗利益」は1520.2万円。平均人件費が528.1万円(連結)と突出して高くても売上対比8.7%の営業利益を稼いでいる。写真:アフロ

 アパレル・ファッション業界専門の転職支援サービス「クリーデンス」が毎年調査している「職種・年齢別平均年収」の2022年版が発表されたが、他業界に比べて高いとは言えない水準に加えて30代で頭打ちになってしまう年収カーブに、この業界が抱える根本的な生産性とガバナンスの課題がうかがえる。

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キャリアを積んでも年収の頭打ちで「若者が回転する業界」

 「クリーデンス」の調査は12年から見ているが、職種には多少の入れ替わりがあるものの、「25~29歳」「30~34歳」「35~39歳」という年齢区分は変わらない。そもそも40代以上の区分が存在しないのは転職支援サービス故なのか、40代以上の年収が頭打ちになるからなのか、アパレル各社の年収カーブを聞き及ぶ限り、後者も否定できない。

 アパレル業界の年収カーブ統計は存在しないし開示する上場大手も無いが、生産性の伸びがないから40代に入ると職種によっては給与の抑制や肩叩きが行われているようだ。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」では男女とも年収カーブの頂点は「55~59歳」だが、「卸売業、小売業」の女性だけは「40~44歳」がピークと頭打ちが早く、アパレル業界も似たようなものと推察される。

 職種には“流行”があって、12年にはあった「VMD」(Visual Merchandiser:陳列専門職)は無くなり、近年は「WEB/EC」(オンライン販売関係職)が登場している。

 12年から変わらない普遍的な職種として企画系の「デザイナー」「パタンナー」、営業系の「販売」「店長」を取り上げて12年からの変化を見ると、年収がほとんど伸びていないどころか職種や年齢によっては大きく減少していることに驚かされる。

 「デザイナー」は「25~29歳」こそ319万円から331万円と12万円増えたものの、「30~34歳」は381万円で変わらず、「35~39歳」は442万円から408万円に34万円も減っている。「パタンナー」は全世代で激減しており、「25~29歳」は307万円から271万円と36万円、「30~34歳」は349万円から324万円と25万円、「35~39歳」は436万円から343万円と何と93万円も減っている。どちらも近年は3D・CADにシフトしてデータベース化が進み、先々はAIに仕事を奪われかねない職種だから、待遇も厳しいのだろうか。35歳過ぎたら辞めてくれと言わんばかりの年収推移を見る限り、アパレルの企画職は「若者が回転する職種」というのが実態なのだろう。

 「販売」は「25~29歳」で266万円から307万円と41万円、「30~34歳」で304万円から337万円と33万円も増えているが、「35~39歳」は368万円から351万円と17万円も減っている。「店長」は全世代で高騰しており、「25~29歳」で307万円から360万円と53万円、「30~34歳」で364万円から386万円と22万円、「35~39歳」で402万円から435万円と33万円も増えている。

 若年「販売」職の年収上昇はコロナ下の販売低迷による大量離職から一転しての売上回復による人手不足が背景で、それまでは長らく低迷していた。経験による生産性の伸びの限界が早く(E2Cプレイヤー〈注1〉になれる人は別だが)、運営・管理や編集陳列までこなせる店長になれないと年収が頭打ちになることが見て取れる。

 「WEB/EC」の中でも社内で育成できるWebコーダー(HTMLやCSSでWebサイトの書き換えができるレベル)の年収は「販売」職と大差ないが、NetエンジニアやWebマーケティングはIT業界と出入りする人材だから年収相場が格段に高い。外人部隊的な位置付けで社内のキャリア育成体系からは乖離しているから、アパレル企業経営のガバナンスとは分けて考えるべきだろう。