紳士服大手の青山商事が、コロナ後のスーツ市場を見据え新業態の展開を開始した。2023年5月、ビジネスウェア事業の主力業態「THE SUIT COMPANY(ザ・スーツカンパニー)」を「SUIT SQUARE(スーツスクエア)」に屋号変更し、これまでターゲット顧客によって分かれていた4つのブランドを1つに集約させたのだ。その第一歩としてオープンしたのがOMO(Online Merges with Offline:オンラインとオフラインの融合)型店舗の「SUIT SQUARE TOKYO GINZA店」(東京都・中央区)。青山商事は2025年を目処にザ・スーツカンパニーをスーツスクエア業態に移行させる考えだという。同社はなぜスーツスクエアを始めたのか。執行役員TSC事業本部長の河野克彦氏に話を聞いた。
スーツは不要になったのか?
──「ザ・スーツカンパニー」は新業態「スーツスクエア」に統合されます。どのような理由があるのでしょうか。
河野克彦氏(以下敬称略)「変わりゆくスーツの概念」に対応するためです。我々が「ザ・スーツカンパニー」1号店を日本橋に出店したのが2000年。当時はスーツと言えば百貨店で購入する高価な商品や郊外店の割引セール・セットセールの販売が主流でした。そこで、スーツカンパニーは都心の一等地に大型店舗を出店し「2つのプライスライン(税抜1万9000円、2万9000円)」「割引しない価格設定」「スーツの在庫数が約1500着の豊富な品揃え」という業界としては新しい販売形態に取り組み始めたのです。
ザ・スーツカンパニーは結果的にビジネスパーソンが手頃な価格で買えるスーツブランドとして定着しました。その後、ワンランク上の素材を提供する「ユニバーサル ランゲージ」、レディース需要を取り込む「ホワイト ザ・スーツカンパニー」、勃興するオーダースーツへのニーズに対応する「ユニバーサル ランゲージ メジャーズ」を立ち上げました。お客様のライフスタイルとスーツに対する価値観の変化に合わせて、さまざまなブランドを立ち上げてきたのです。複数ブランドの展開は、消費者のライフスタイルの多様化に対応するのと同時に、長くブランドをご利用いただける「ロイヤルカスタマー」を醸成しようという狙いもありました。
それが、2020年に入るとコロナ禍が直撃し、スーツ市場は激変します。在宅勤務の一般化に伴い、元々減少傾向にあったスーツ着用シーンが激減したのです。我々としても主力業態のザ・スーツカンパニーの物件費の高さや在庫の多さには悩まされていたところでした。
一方で、「スーツは不要になったのか」と言われれば、答えは否です。レディース需要は増え続けていますし、20~30代は現在の40~50代が若い時と比較してもスーツに対するこだわりを強く持っています。若い世代の間で1着あたり単価が高いオーダースーツ市場が盛り上がっているのがその証左でしょう。さらに、近年はスーツもECで購入する傾向が強まっているなど、お客様の購買行動が大きく変化しています。実際、当社でもEC利用率は高まっており、アプリやSNSに登録しているデジタル会員は1680万人※います(2023年3月期、前年比約200万人増)。※洋服の青山含むビジネスウェア事業全体
つまり「オフィス出社用」のようにある程度決まっていたスーツの概念が、「カジュアルな場面でも着たい」「(高い金額を払ってでも)自分の身体にピッタリ合うものを着たい」と、お客様の嗜好によって多様化してきているのです。
新しく開発した「スーツスクエア」業態では、これまで別々の店舗で販売していた4つのブランドを統合するほか、在庫数・店舗面積を縮小させながら、店内にもデジタル技術を取り入れたサービスを展開することで、変化し続けるスーツへの期待に応えられる新業態として出発したのです。