IT仕掛けのレジレス店舗からOMO(注1)なUI/UX(注2)、リテールメディアまで店舗DXが注目されて久しく、さまざまな実験とシステム投資が繰り広げられてきたが、セルフレジを除いては目に見える業績改善効果が上がっているのか疑わしい。成果を上げぬままレガシー化するシステムも少なからず、ニューリテールストアとしてのゴールを見据えて優先順位を定め、コスパ・タイパのKPI(注3)を実証して進めるべきだ。
■小島健輔が解説「アパレル業界のDXはなぜ、分断と混迷を抜け出せない?」
■小島健輔が喝破、「Amazon GoとAmazon Styleの問題はここにあり
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(注1)Online Merges with Offlineの略称。ネットと店舗の垣根を越えた連携を意味し、ショールーミング(店舗からネット)による情報取得で店舗やネットの購入を促進したり、ウェブルーミング(ネットから店舗)による店取り置きや店渡し、店出荷で顧客利便と在庫効率を高め物流コストを抑制するリテール戦略。
(注2)UIはUser Interfaceの略称で顧客接点、UXはUser Experienceの略称で顧客体験
(注3)Key Performance Indicatorの略称で重要業績評価指標
それでもレジレス店舗は定着する
2018年1月にアマゾンがレジレスコンビニ「Amazon Go」の1号店をシアトルに開店(本社内のBeta版実験店は2016年12月開設)して以来、中国ではAmazon Goをコピーしたようなレジレスコンビニが雨後のたけのこのように氾濫し、米国はもちろん韓国や日本でも追従する実験が広がったが、中国のブームは短期に終わり、わが国でも顧客が見えてキャッシュレスに限定できる公共施設内や企業内のコンビニ、駅構内のKIOSKに留まっている。
ご本家Amazon Goも2023年3月に8店舗の閉店を発表し、レジレスグロサリーストアの「Amazon Fresh」も新規店舗の開発を凍結している。
Amazon Goの18店舗は残り、郊外スタンドアローン型を新規に開設して現段階(9月3日)で米国内に22店舗、「Amazon Fresh」も44店舗が存在しているが、アマゾンの経営陣は小売りチェーンの運営に疎く、2022年3月に小売の実験店舗「アマゾンブックス」24店、「アマゾン4スター」33店、「アマゾンポップアップ」9店の全てを閉店している。2022年5月にロサンゼルス近郊に立ち上げたアパレルのショールーミングストア「Amazon Style」もバックヤードのオペレーションが法外なスペースと人時量を要して採算性が見えず(「ZARA」の同様な実験の挫折を研究しなかった)、2022年10月にコロンバスに開店した2号店で止まったままだ。
Amazon GoのAIカメラ軸顧客行動解析精算システムは設備投資と運用負荷が大きいのに期待精度に達せず壁に当たっているが、Amazon Freshの「ダッシュカート」は初期モデルから改良されて店内の商品配置やセール情報との連携が進み、量り売り商品のカート登録もワンタッチになり、バーコードをAI商品画像照合が補完していると思われる。それでも陳列棚の重量センサーが一部の商品を制約し、伸び盛りの中食商品(惣菜・弁当)にも制約があるとなれば、DX以前にグロサリーストアとしての競争力が問われざるを得ない。
それでもレジレス店舗は新たな技術の登場や処理速度の向上で実用性が高まり、遠からずセルフ販売小売店舗のデフォルト(標準仕様)になると思われる。レジ精算に費やす生産性の無い膨大な人時量と顧客のレジ待ち不便に加え、店頭の一等地を大量のレジ列とサッカースペース(袋詰め台)に割くという不合理があまりに大きいからだ。
店舗DXの目的と優先順位を明確化せよ
店舗DXはデジタル技術によって顧客利便と生産性の向上を目指すものだが、投資効果のKPIが曖昧なまま技術先行でブーム化しており、成果を得られないまま技術がレガシー化して「リープフロッグの罠」(注4)に陥る悲劇も少なくない。今一度、ゴールの姿を見定めて「目的」を再認識し、技術を選別しKPIを明確にして工程を組み直すべきではないか。店舗DXの目的は一般に以下の3項とされるが、死活の必然性と投資効果という視点から優先順位を明確にする必要がある。
(注4)レガシー化した設備投資の償却に足を取られて技術革新から脱落する状況