アパレル業界の企業もDXに積極的に取り組み始めている。まだ「DX銘柄」には選ばれてはいないが、DX認定制度で認定されている企業もある。アパレル業界は顧客行動の変化に対応して、EC化やオムニチャネル展開が必須になっている業界であり、生き残りのためにDXに積極的な企業が少なくない。

 ここでは、経済産業省のDX認定制度で既に認定されているアダストリアとTSIホールディングス(以降、TSI)の2社のDXの展開をみてみたい。加えて、メタバースや3Dアバター活用の動きなどをまとめたい。なお、ユニクロとジーユーもDX認定されているが、その申請資料の内容は、既に多くのメディアで取り上げられていることがほとんどのため、ここでは取り上げない。

【アダストリアのDX】 オムニチャネル展開、他社商品の販売

 アダストリアは「グローバルワーク」「ニコアンド」「ローリーズファーム」「ジーナシス」等の多ブランド展開をしているSPAのアパレル企業である。グループで国内約1200店舗を持つ。

 会員数1400万人を超える自社ECサイト「ドットエスティ」での顧客接点を貴重な資産として、ネット展開を進めていて、顧客とのつながりをより深く、濃くしていくサービスの提供を目指している。自社EC化率は約15%で、他社ECを含めるとEC化率は既に3割に達している。

 オムニチャネル化については、2018年からドットエスティ上で店舗スタッフがスタイリング提案を行うことのできる「STAFF BOARD」を導入している。2020年に新型コロナウイルスの影響で店舗休業の際にも、スタッフが自宅からスタイリング写真を投稿したという。

 さらに、今年7月には、スウェーデンのバンブーザー社が開発し、世界各地で300ブランド以上の企業で利用されているライブコマースのためのツール「Bambuser」を導入した。このツールの導入によりドットエスティアプリ内でライブ配信が可能となり、動画からの購入がしやすくなった。

 2021年12月からは、ドットエスティと連動したOMO(Online Merges with Offline)型の店舗「ドットエスティストア」も展開している。

 このように、利用者とスタッフのつながりを活用した顧客接点・サービスを拡大して、価値の高いショッピング体験を提供することで、顧客の囲い込みを図っているのが、アダストリアだ。

 また、ドットエスティの顧客に対して、今年からアパレル以外の商品の販売も始めている。1月にサンマルクカフェの「チョコクロ」や鎌倉パスタの冷凍配送を開始。4月には、siroca(シロカ)の調理家電の販売をスタートした。

 取り扱い開始にあたり、アダストリアグループ社員約2000人にアンケートを実施し、スタッフから「実際に購入したい、使ってみたい」という声の多かったアイテムを厳選したとのこと。さらに、スタッフがシロカを利用した生活をレポートして、販売を促進している。

 また、同時期にヤーマンの美容機器&スキンケアコスメの販売もスタートした。7月には、エフ・ジー・ジェイのビューティセレクトショップ「Fruit GATHERING」もオープンした。

 このように、ドットエスティの顧客層をターゲットにして、スタッフも活用してアパレル以外の商品を販売することで、顧客とのつながりを深め、収益増や利用率向上を狙っている。

 これは、どのブランドのどの年代の顧客がどのような商品を求めているかなどを知る手段になり、顧客の生活や消費行動をより知ることが可能になるため、マーケティングへも活用できるであろう。

 このように、アダストリアのDXでは、オムニチャネル展開と他の商品の販売の取り組みが特徴的である。