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 地方部を中心とした人口減少による地域課題が顕在化し、日本の産業競争力低下が叫ばれる。そうした中、デジタルの力で地方の社会課題を解決し、魅力を高める「デジタル田園都市国家構想」をはじめ、「スマートシティ」への取り組みが本格化している。本連載では、先進事例として注目を集める福島県会津若松市の取り組みを中心に、スマートシティの最前線と自立分散型社会の実現について解説した『Smart City 5.0 持続可能な共助型都市経営の姿』(海老原城一、中村彰二朗著/インプレス)より、内容の一部を抜粋・再編集。スマートシティを成功に導くための秘訣を探る。
 
 第4回目は、スマートシティ会津若松におけるデータの利活用、産学官民の連携などの特徴と、プロジェクトの参加者の拠り所となった「10の共通ルール」について解説する。

<連載ラインアップ>
第1回 市場規模は10年間で5倍の予測、世界のスマートシティの新潮流とは?
第2回 都市OSを実装してデータをフル活用、会津若松市のスマートシティ構想
第3回 ベースは「三方良し」、共助型スマートシティ「会津モデル」の5つの特徴
■第4回 主人公は市民、スマートシティ会津若松の「10の共通ルール」とは?(本稿)

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ポイント2:オプトイン&パーソナライズ

 自治体が行政運営のために保存・蓄積しているデータには、前述したオープンデータのほかに、住民票や健康保険・年金など基礎的なセキュアデータ、医療や教育に関するパーソナルデータ、企業や団体がIoTを通じて取得した位置情報やログ情報など、さまざまな種類がある。

 これらのデータのうち、オープンデータの活用は他地域のスマートシティでも指向されている。だが会津モデルでは、市民による「オプトイン済みのパーソナルデータ」の活用を最も重視している点が大きな違いである。オプトイン済みとは、そのパーソナルデータの活用に対し、本人が同意・事前承諾していることを指す。

 そのために会津モデルでは、個人情報保護法などの法令遵守、データの匿名化・暗号化などのセキュリティ対策を当然の前提として、データ活用の原則に次の2点を据えている。

原則1:取得・活用するデータの種類、利用目的、利用先などを明示し、事前に利用者の同意を得るオプトイン型のデータ活用

原則2:「自分のデータは自分のものであり、自分の意志(同意)によって、自分が使いたいときに使いたい所で利用することで、自身の生活の利便性が高まる」という考え方

 市民一人ひとりのWell-being(幸福感)を目指すには、市民が参加できないモデルはうまくいかない。企業や行政が主体になり市民からデータを吸い上げサービスを開発・提供するのではなく、市民が理解し、自らの意思で情報を共有し、運営に関与することが大切だ。

 この原則に立ち、会津若松市の市民ポータル「会津若松+」ではオプトイン型を採用し、サービス利用者の属性や行動履歴に合わせてパーソナライズした行政・地域情報の提供を可能にしている。

 なおパーソナライズ化のための利用者IDとしては、市民がすでに保有している種々のIDをそのまま活用できる「オープンID」に対応するほか、必要性に応じて「マイナンバーカード」を使った本人認証にも対応し、多様なサービスを利用するための「統合ID」としても機能する。

ポイント3:地域を丸ごとスマート化する幅広いサービス領域

 国内のスマートシティでは、エネルギーや医療、交通など単体のテーマを掲げ展開しているケースが少なくない。これに対し会津若松では、当初から複数分野のサービスを同時並行的に進めてきた。2018年にはエネルギー・医療・教育・観光・農業・製造業・金融・交通の8領域をカバーし、当時は「手を広げ過ぎている。どこかの分野に集中したほうが良いのではないか」という疑問の声も聞かれたほどである。

 2022年、デジタル田園都市国家構想タイプ3の採択を受けた際のカバー範囲は、さらに4領域を加えた合計12領域にまで拡大している(2章2節参照)。これほどサービス領域を多角化している理由は、「市民中心/市民のWell-being」をスマートシティの目的にしているからだ。

 スマートシティの主人公は、あくまでも市民である。できるだけ多くの市民が参加しやすい環境を整えるには、多様なニーズに応える必要がある。しかし、1人の市民でも、年齢やライスステージによって必要なサービスは異なり、直面する課題は複数分野にまたがっている。多様なサービスを用意しタッチポイントを増やせば、どこかで市民との接点が持て、結果としてスマートシティへの関心が高まり、オプトインの裾野も広がるという考え方が根底にある。

 企業にとっての会津若松は、充実したデータの集約が実証フィールドとしての魅力だと先述した。だが企業によって検討している新サービスの領域は異なる。サービス領域が多様なほうが幅広いビジネスケースに応用できるだけに、多数の企業を誘致でき、オープンイノベーション(共創)にもつながりやすい。地域丸ごとのデジタルシフトこそが、スマートシティをより成長させると信じている。