大手医薬品メーカー、中外製薬は「人は企業を成長・発展させるかけがえのない財産」との考えから人材を「人財」と表記し、成長戦略と一体化した人財戦略を推進している。人事制度の改革やDXによる人事戦略をけん引してきた上席執行役員の矢野嘉行氏に、同社の人財育成の考え方と手法について話を聞いた。
人を成長させるのは研修ではなく経験
——中外製薬では2021年に成長戦略「TOP I 2030」を策定しました。この成長戦略と人財戦略をどのように結び付けるのでしょうか。
矢野嘉行氏(以下敬称略) 「TOP I 2030」では、当社が目指すトップイノベーター像の実現を目標に掲げています。それは「世界の患者さんから『中外なら必ず新たな治療法を生み出してくれる』と期待される」「世界中の情熱ある人財から注目され、ヘルスケア領域に関わる世界中のプレーヤーが『中外と組めば新しい何かを生み出せる』と想起する」「事業活動を通じたESGの取り組みが評価され、社会課題解決をリードする企業として世界のロールモデルである会社」という姿です。
TOP I 2030の「TOP」には「日本ではなく世界のトップイノベーター」を目指す想いが込められ、「I」は「イノベーター(Innovator)」の「I」と、「TOP I 2030」の実現を目指す一人一人の社員、つまり「私(I)」の両方を意味しています。
この目標を実現するために、組織パフォーマンスを高めていけるような人財を育成していく人財マネジメントに取り組んでいます。
——かなり先を見据えた人財育成ですね。
矢野 企業のビジョンを実現するために必要な人財を育てていくのが、人事の役割になります。人を育てるのは1年や2年では不可能で、10年は必要です。最初の部署で3年程度経験を積んだら、また別の部署で3年と考えると、10年で経験できるのは3つか4つの部署になります。10年なんてあっという間ですから、どんなキャリアを描いていくのかを少しでも早くバックキャストで考えるべきだと考えています。