イオンCTO兼イオンスマートテクノロジーCTOの山崎賢氏(撮影:今祥雄)

 イオンリテールからミニストップ、イオンシネマ、イオン銀行まで、グループ全てのIDを統合し「イオン生活圏」を構築する──。流通コングロマリットのイオンは、傘下の各事業会社が展開するアプリやサービスの90以上の顧客IDを「iAEON(アイイオン)」というイオンのトータルアプリに集約しようとしている。統合作業の中核を担うのが、イオンが2020年に「グループのDXのまとめ役」として立ち上げた会社、イオンスマートテクノロジーだ。

 イオンは、顧客IDの統合により、どんな未来を目指しているのだろうか。イオンとイオンスマートテクノロジーでCTOを務める山﨑賢氏に話を聞いた。

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「iAEON」はなぜ必要なのか?

──イオンスマートテクノロジーは90以上の顧客IDを「iAEON」に統合させるために設立された会社です。なぜ、IDを1つのアプリに集約しようとしているのでしょうか。

山﨑 賢/イオンCTO兼イオンスマートテクノロジーCTO

ヤフーで新規サービスの立ち上げ経験を経て、ベンチャー企業で開発組織の立ち上げや新規プロダクトの開発を担当。その後、リクルートに入社して組織マネジメントとビジネスを学び、複数のベンチャー企業でCTOとしての経験を積み重ね、2023年3月から現職。イオングループの方針に基づき、各事業会社と協力しながら、グループ全体のDXを推進する機能会社としての役割を果たす。同時に、事業会社の側面も持ち、グループ横断のアプリや情報基盤の提供も行っている。

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山﨑賢氏(以下敬称略)「お客さまの輪郭」をはっきり識別するためです。イオンには多くのグループ会社があり、それぞれの企業がそれぞれのアプリ・サービスを開発している状況でした。そのため、ひとりのお客さまが「まいばすけっと」「イオンシネマ」「ミニストップ」のサービスに登録しているのが当たり前だったのです。

 お客さまにとっては、同じイオングループのサービスを利用しているのにポイントが別についてしまうと不便ですし、イオンとしてもグループのシナジーを活かしにくい状況にありました。顧客IDのiAEONへの統合は、お客さまの家族構成や購入履歴・頻度、商圏などをよりはっきりと認識し、適切なマーケティングを打つために不可欠な作業です。

 現在iAEONの会員数は600万人ほどですが、90を超えるID、延べ会員数は8000万人を抱える顧客データベースの統合を目指しています。

──ID統合で、具体的にどのようなマーケティングが打てるようになるのでしょう。

山﨑 例えば、GMSの「イオンスタイル」の生活雑貨売り場でランドセルの「かるすぽ」を購入された40代女性のデータがあるとします。小学生のお子さんがいらっしゃるこの女性に対して「イオン銀行」の学資保険を安価で購入できるクーポンを発行する、といったマーケティングが考えられます。

 イオンが展開する食品・雑貨・金融・エンタメなど多岐に渡る商品を、お客さまのライフスタイルに合わせてご提案できるようになるのです。


──イオンリテールをはじめとした食品小売業は、これまでレジのPOSデータを元にマーケティングを実践していました。今回、iAEONに様々な業態のサービスのデータが統合されることで、食品に関してもお客の嗜好を今まで以上に認識できるようになりますか。

山﨑 データ統合はよく業務効率化の面から語られがちですが、実際は現場のマーケティングに与える影響が大きいと思います。食品の商品政策(MD)においては、POSデータを元にしたものよりも、より精緻なデータを取得できることから、より効率的な販促を実現できると期待しています。

 個人的に最も効果を期待しているカテゴリーの1つに、お酒があります。20〜30代の単身者や子育て世代はビールが中心ですが、40代はワイン、シニア層は焼酎と来店するお客さまによっておすすめする商品を変えられます。商圏人口の年齢層も詳細に分かるようになるので、それに合わせた品揃えを用意できるでしょう。

 食品以外では、スポーツやアパレルなどの専門店において効果が高いと踏んでいます。iAEONの購入履歴と顧客情報を元にデータを分析することで、お客さまのライフスタイルや予算感にピッタリ合う商品を提案できるのではないでしょうか。

──ID統合によるメリットはある一方で、イオンは約300社のグループ会社を抱えています。各企業はこれまで自社の顧客情報を基に営業してきました。傘下企業に対してすんなり説得できたのでしょうか。