「エフェクチュエーション」とは、高い不確実性に対して「予測」ではなく「コントロール」によって対処する思考様式を指す。目的がはっきりしておらず、最適な手段がない場合でも、望ましい結果を生み出すことを助けてくれる。2023年8月、中村龍太氏との共著で書籍『エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」』(ダイヤモンド社)を上梓した神戸大学大学院経営学研究科准教授の吉田満梨氏は、「エフェクチュエーションは誰もが実践できる、学習可能な理論」と語る。前編となる本記事では、吉田氏に本書執筆のきっかけ、「5つの原則」の具体的な中身について話を聞いた。
■【前編】共通していた思考様式、成功者が実践する「エフェクチュエーション」とは何か(今回)
■【後編】11億円を資金調達したスタートアップ経営者、“逆転”を成功させた思考法とは
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「5つの思考様式」は起業家以外の人でも使いこなせる
――なぜ、エフェクチュエーションをテーマにした入門書を執筆しようと思われたのでしょうか。
吉田満梨氏(以下敬称略) 2019年、立命館アジア太平洋大学の出口治明学長に出版社をご紹介いただき、エフェクチュエーションに関する企画がスタートしたことが始まりでした。
私自身が研究者ということもあり、当初、エフェクチュエーション理論を学びたい方は、この理論の提唱者であるサラス・サラスバシー*1 (以下、サラスバシー)氏の本を読んでいただくべきだと思っていました。
しかし、2015年にサラスバシー氏の著書『エフェクチュエーション:市場創造の実効理論』(碩学舎)を共訳させていただいてから、各方面から「もっとこの理論を新規事業やイノベーションに従事する方々に知ってもらうべき」というお声いただくようになり、徐々に考えが変わり始めます。
2018年にサラスバシー教授をお呼びしてワークショップを開催した際には、平日にもかかわらず100名以上の方にご参加いただき、この経験も本書の執筆を後押ししました。
その後、大学の授業で4年間、エフェクチュエーションについての講義を担当する中で、より多くの方にエフェクチュエーションを知っていただくことに意味があると考えるようになり、本書の執筆に至りました。
*1. 米バージニア大学ビジネススクールでアントレナーシップ部門の教授を務める経営学者。1978年ノーベル経済学受賞者であるハーバート・サイモン教授の最晩年の弟子にあたり、熟達した起業家の意思決定についての研究で博士論文を執筆した。