(左)JWIBA発起人の芦澤美智子氏、(右)三菱商事の吉成雄一郎氏(撮影:宮崎訓幸)

 日本企業が新規事業やイノベーションを生み出せなくなっていると言われて久しい。その打開策として、駐在員を海外に派遣してその学びに期待する企業もあるが、彼らの知見をうまく生かせないケースが少なくない。どうすれば海外駐在員の学びや経験を新規事業やイノベーションの創出につなげられるのか。スタートアップが多数集積し日々イノベーションが生まれる米国シリコンバレーの駐在経験者2人に、現地のビジネス環境の日本との違いや、日本の大企業がイノベーションを生み出すためのヒントについて聞いた。

※本稿は、TMIP(Tokyo Marunouchi Innovation Platform)と、シリコンバレーに駐在/駐在帯同する女性のコミュニティーJWIBAが2023年7月27日に共催した「TMIP×JWIBAランチコミュニティ」を取材したものです。

次につながるかは「初回の30分の打ち合わせ」で決まる

 日本の大企業では、プロジェクトが動き出す前の打ち合わせに時間を割く傾向が強い。まずは一般社員同士で名刺交換を行い、企画や意見を提案する場を設け、中間管理職の決裁を経て、最後にトップの承認を得て結論を出す・・・。このように打ち合わせを重ね、多数の人が意思決定に関わるのが一般的だ。参加者のスケジュールを合わせるために会議が数カ月先に設定されることもある。

 これに対して、「アメリカでの打ち合わせ時間は30分」と、シリコンバレーに駐在/駐在帯同する女性コミュニティー「JWIBA」の発起人である芦澤美智子氏は日本とのスピード感の違いを強調する。あいさつ等も含めると提案に使える時間は実質15分ということもあるが、そのチャンスを逃すと次の機会はないのだ。

芦澤 美智子/JWIBA発起人・慶應義塾大学大学院経営管理研究科(慶應ビジネススクール)准教授

公認会計士、企業変革プロジェクトリーダー等を経て、2013年アカデミアに転向。スタートアップ/イノベーションエコシステムを専門として、複数の産学官連携プロジェクトの主催や社外役員等を務める。2022年、客員研究員としてスタンフォード大学に滞在中、駐在女性・駐在帯同女性のキャリアを支援するコミュニティー「JWIBA(Japanese Women’s Initiatives in the Bay Area)」を立ち上げる。2023年より慶應ビジネススクール准教授に就任。

「会話が盛り上がれば『詳細を打ち合わせしたい。明日来られる?』なんて急ピッチで話が進みます。『鉄は熱いうちに打て』という考え方なので興味のある仕事がどんどん優先されていくため、スケジュール変更は柔軟でいわゆる『ドタキャン』も珍しくありません。『面白い話は今やらなければ』という考えが強いのです」(芦澤氏)

 スピーディーにビジネスを進めるための環境も整っている。席順一つ取っても上座や下座など暗黙のビジネスマナーが数多くある日本とは違い、シリコンバレーの会議では、役職にかかわらず入室順に座席が埋まっていく。少数精鋭のメンバーが参加者として集まるため、打ち合わせの場で発言しない人はいない。新入社員とCEOがメインとなって直接意見交換するのも当たり前だ。

 日本では上下関係や雰囲気を重視し、特に大勢の人が集まる会議の場ではその都度空気を読みながら話を進めていく。そうした場に現地のスピード感を体験している海外駐在帰任者が参加すると、進め方の違いにカルチャーショックを受けることも少なくない。こうした細かい気遣いや配慮は日本のビジネスの特徴だが、イノベーションを起こすという点では足かせになっていることは否めないだろう。