スタートアップが新たなビジネスモデルを生み出すよりも、成熟している大企業が新たなビジネスモデルに乗り出す方が数段難しい、と言われている。その要因の一つに上げられるのが「カニバリゼーション」(共食い)の存在だ。前編に続き、 『カニバリゼーション――企業の運命を決める「事業の共食い」への9つの対処法』の著者である早稲田大学ビジネススクール 大学院経営管理研究科 教授 山田英夫氏に、カニバリゼーションの乗り越え方について話を聞いた。
■【前編】新規事業を潰すのは誰だ?頻発する「事業の共食い」の知られざる実態
■【後編】新ビジネスを無事に立ち上げた大企業は「事業の共食い」をどう克服したのか?(今回)
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大企業が英断した「収益事業からの撤退」
――ご著書ではカニバリゼーションを克服する方法の一つとして、ビジネスモデルの「置換」を挙げています。これはどのような方法でしょうか。
山田英夫氏(以下敬称略) 「置換」とは、新しいビジネスモデルを上市すると同時に、収益事業から撤退させることです。例えば、最盛期に発行部数50万部を超えた情報誌「ぴあ」は、ネット化に伴い、当時黒字だった紙の情報誌から思い切りよく撤退しました。リクルートも同様で、ウェブに適した情報誌は比較的短期間で休刊にして、ウェブ媒体に置換を進めました。
こうした事例こそあるものの、日本の大企業が自ら収益事業を市場から撤退させることは容易ではありません。多くの場合、安定した業績を維持できているからです。
しかし、そのままでは新規事業への置換は進みません。将来的に収益化できる新規事業があるならば、長期的な視点に立ち、収益事業から撤退してでもそちらへ置換する、という英断が求められることもあります。
――思い切りよく置換を行うためには、どのようなアプローチが必要でしょうか。
山田 収益トップの事業がなくなってもいいように、第2、第3の収益事業を育てておき、業績のつなぎをつくっておくことです。収益事業からの撤退により業績が一時的に悪化することはやむを得ません。しかし、常に新しい収益源をつくり続けることも、経営層の重要な仕事といえます。