1960年創業、2023年に64年目を迎えるリクルートは、最初は西新橋の3階建てビルの屋上のプレハブで、創業者が机を並べて起業した。一緒に働いてくれる人材が欲しいが知名度がないので「学歴、男女、国籍の差別なし」で募集。すると4人の採用予定枠に約2000人の応募が集まった。採用した従業員は働く意欲と能力が高く、多様性にも富み、それぞれの個性を生かしながら働く組織となったという。創業当時より、「価値の源泉は人」と人材マネジメントに注力してきたリクルート。同社の人材戦略は、いかなるシステム、メカニズムで回っているのか、キーパーソンに聞いた。
人材を経営上の最も重要な資本と捉える
――価値の源泉は人ということですが、具体的にはどのような意味でしょうか。そして、なぜそう思われるのですか。
柏村美生氏(以下敬称略) リクルートは、「価値の源泉は人」という価値観を強く真ん中に据えて、人材を大切な資本だと捉えています。この価値観は、創業以来、脈々と私たちの中に紡がれています。
なぜそうなのかについて、私なりの考えをお話しします。
当初のリクルートのビジネスモデルは、世の中の情報を集めて紙メディアにしてお届けするという、模倣されやすいビジネスでした。リクルートは物質的な資産を持たずに勝負し続けてきた会社です。だから唯一の財産が人だったと思います。
だからこそ個人が持つ好奇心・情熱にベットし、個人の「もっとこうしたい」という意思を源にサービスを進化させ、新しい価値を創出することを、すごく大事にしてきたのです。
また、当社の創業メンバーの一人である大沢武志は実は心理学部卒でして、『心理学的経営』という自著の中で「人は自律的に行動し、自分らしく生きたいと思う生き物である。内発的動機に基づいて行動する時が最もパフォーマンスが高い」と記しています。こうした考えはリクルートのあらゆるところに埋め込まれています。
柏村 リクルートは、仕事の機会こそが個人の能力開発・成長を促すチャンスだという考えを大事にしています。そして、少し爪先立った期待をかけようと考えています。爪先立つとは、本人の実力よりも少し上の仕事で、爪先立って背伸びしないとできないような仕事です。
爪先立った期待をかけるからこそ失敗する。でもリクルートは、失敗に寛容であることも大切にしています。これは今でも続いていまして、失敗から何を学んだかをナレッジシェアすることが大切とされ、重要視されています。
この教育方針は、今でも受け継がれています。ただ、同じ失敗を2度するとめちゃめちゃ怒られるんですが(笑)。
――「価値の源泉は人」の意味とルーツ、手法は理解できました。御社は2021年に従来7つに分社化した形を再度1社に統合という変化を起こしました。このとき人材への考えにも変化はあったのですか。
柏村 人材マネジメントポリシーである「価値の源泉は人」は不変です。しかし、個人に求めるもの、会社が提供するものについては、10年後の社会や働き方を見据えた際に、リクルートが魅力的な会社であり続けるにはどうあるべきかを考え、アップデートを行いました。
個人に求めるものは、自律、チーム、進化という言葉を明確にしました。チームという言葉はリクルートとしては初めて言語化しましたが、個人が自律的キャリアを形成して個々人の強みを重ね合わせ、弱みはサポートし合うことでパフォーマンスを最大化していくことが大切であるということを明確化しました。
一方で会社が提供するものは、個人がいかんなく能力を発揮できる機会・環境である「CO-EN」のような場にしたいと宣言しました。CO-ENとは、「Co-Encounter(出会い)」と「公園」の2つを掛け合わせた造語です。
今、私たちは会社組織を、出入り自由で、面白い遊具があって、そこに行ったら新しい機会や新しい人や新しいことと出会える、好奇心と価値があふれる、社内外の垣根を越えた協働・協創を加速させる世界にすることを目指しています。
現在は試行錯誤しながら、CO-EN構想のために、いろいろなチャレンジをしています。