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 デジタイゼーション、デジタライゼーションを経てデジタル化の最終目標となるデジタルトランスフォーメーション(DX)。多くの企業にとって、そこへ到達するためのルート、各プロセスで求められる施策を把握できれば、より戦略的に、そして着実に変革を推し進められるはずだ。

 本連載では、『世界のDXはどこまで進んでいるか』(新潮新書)の著者・雨宮寛二氏が、国内の先進企業の事例を中心に、時に海外の事例も交えながら、ビジネスのデジタル化とDXの最前線について解説する。今回のテーマは、多くの企業が顧客戦略の中心に据える「パーソナライゼーション」。アシックス、スポティファイなどの先進企業は、AIを活用し、どのようなユーザー体験を生み出しているのか?

デジタルネイティブ企業以外にも広がる「パーソナライゼーション」

 現在、「パーソナライゼーション」(個別化)を顧客戦略の中心に据える企業は多い。パーソナライゼーションとは、端的に言えば、顧客一人一人に向けて最適化を図ることを意味する。近年では、データドリブン経営に象徴されるように、企業が顧客の属性から行動履歴に至るまでさまざまなデータを分析することで、個々の顧客が最も興味・関心のある商品やサービスが提供されている。

 企業は数十年にわたり、このパーソナライゼーションを強化するため、自社独自の経営資源やケイパビリティ(組織能力)を活用して業績の向上に努めてきた。これをリードする企業の多くは、アマゾンやネットフリックス、メタ、スポティファイ、ウーバーなどのデジタルネイティブ企業であるが、その裾野がAIを活用することにより広がり始めている。

 パーソナライゼーションは、ブランドの差別化を図るだけでなく、競争を自社に有利な方向へと導いてくれる不可欠な要因としても有効に機能する。

 今や音楽ストリーミングサービスのリーダーとしてグローバルレベルでその地位を築き上げているスポティファイ。その成功の大部分が、パーソナライズされたレコメンデーションによるものであると言っても過言ではない。

 ストリーミング可能な楽曲数は1億曲に達し、アクティブユーザー数は6.7億人を超え、そのうち有料会員が2億6300万人を占め、売上高は156億ユーロに達している。スポティファイは、20年余りでこれらの数値を達成し世界最大手の地位を築いている。