写真提供:共同通信社

 一口に災害対策と言っても、日常生活において「非常時にしか価値を感じられないもの」に備えることはなかなか容易ではない。そこで今、「備えられない」ことを前提に、社会状況(フェーズ)を区分しないデザイン設計が、さまざまな業種で注目され始めている。本連載では『フェーズフリー 「日常」を超えた価値を創るデザイン』(佐藤唯行著/翔泳社)から、内容の一部を抜粋・再編集。災害大国・日本の社会課題解決にもつながる「フェーズフリー」の考えを生かしたビジネスの可能性を探る。

 第1回では、トヨタ自動車のプリウスPHEV(プラグインハイブリッド)、アシックスのロングセラー「走れるビジネスシューズ」などを例に、フェーズフリーの基本的な考え方について解説する。

はじめに

 フェーズフリーとは、「日常時」と「非常時」という2つの社会状況(フェーズ)から自由(フリー)になり、「いつも」を豊かにする物が、「もしも」においても暮らしと命を支えてくれるようにデザインしようという、防災にまつわる新しい考え方のことです。

 具体例を紹介しましょう。たとえば、トヨタ自動車の「プリウスPHEV」という車があります。PHEV(プラグインハイブリッド車)とは、ガソリンを使用するエンジンを搭載しつつ、外部から供給した電源でも走行できる、ハイブリッドな車のことです。

 この車の凄いところは、燃費の良さだけではありません。実はこの車、災害などによる停電が発生した際には、搭載された大容量のリチウムイオンバッテリーが蓄電池として機能するほか、エンジンを作動させれば発電機としても利用可能になっています。そう、日常時だけでなく、非常時にも役立つように設計されているのです。

 もうひとつ、例をご紹介します。「アシックスランウォーク」という商品をご存じでしょうか?