写真提供:日刊工業新聞/共同通信イメージズ

 普段から災害に備えることが大切だと分かっていても、消費者にとって「非常時にしか価値を感じられないもの」を用意するのはコストであり、そのため防災はビジネス化が難しい領域と言われる。そこで今、「備えられない」ことを前提に、社会状況(フェーズ)を区分しないデザイン設計が、さまざまな業種で注目され始めている。本連載では『フェーズフリー 「日常」を超えた価値を創るデザイン』(佐藤唯行著/翔泳社)から、内容の一部を抜粋・再編集し、「フェーズフリー」の考えを生かしたビジネスの可能性を探る。

 第5回では、フェーズフリー商品を開発する際に犯してしまいがちな失敗と、非常時にも価値がある商品のアイデアを生み出す効果的な思考法を紹介する。

「日常時+非常時=フェーズフリー」とは限らない

 フェーズフリーな商品やサービスをつくる方法を説明する前に、まずは「やってしまいがちな失敗」についてふたつほど紹介させてください。ひとつめは、「既存の商品やサービスに、ただ防災機能を追加してしまう」という失敗です。

 たとえばポケットがたくさんあって、その中に防災用品が備えられた、ビジネス用ジャケットがあったとします。「洗濯機で洗える丈夫なジャケットで、ポケットに防災用品がいつも備えてあるから、もしものときにも役立つ」というわけです。けれども果たして、これはフェーズフリーな商品と言えるのでしょうか? 答えは「いいえ」です。

 たしかに、もしものときに防災用品をすぐ取り出せて使える状態にしておくことは、防災の観点から言えば大切なことです。けれども日常時にそのジャケットを身につけた際、通常のジャケットよりも重たく感じたり、かさばってしまったり、“普段は使わないもの”でポケットがふさがったりしているのでは、日常時のQOLが下がってしまいます。非常時に備えた機能がどれだけ搭載されていようと、普段使いしたいと思ってもらえない商品では意味がありません。

 ここまで説明してきたとおり、フェーズフリーにとって大切なのは日常時にQOLを高めてくれるものが、非常時においてもQOLを高めてくれることでした。「非常時の機能を追加することで、日常時の価値が下がってしまう」のであれば、そうした商品はフェーズフリーとは言えないのです。

 こうして言うと当たり前のように聞こえるかもしれませんが、いざ開発をしてみると陥りがちな失敗です。たとえば非常時に向けた機能を盛り込もうとした結果、単純に非常時対策分のコストが上乗せされてしまったり、対象ユーザーが狭まってしまったり…。単純に防災機能を付与すればフェーズフリーになるわけではないことに留意しましょう。