普段から災害に備えることが大切だと分かっていても、消費者にとって「非常時にしか価値を感じられないもの」を用意するのはコストであり、そのため防災はビジネス化が難しい領域と言われる。そこで今、「備えられない」ことを前提に、社会状況(フェーズ)を区分しないデザイン設計が、さまざまな業種で注目され始めている。本連載では『フェーズフリー 「日常」を超えた価値を創るデザイン』(佐藤唯行著/翔泳社)から、内容の一部を抜粋・再編集し、「フェーズフリー」の考えを生かしたビジネスの可能性を探る。
第2回では、防災を「コスト」から「バリュー」に置き換え、消費者から強い支持を集められるフェーズフリーの可能性について考える。
フェーズフリーはなぜ支持されるのか
「コスト」から「バリュー」への転換。このパラダイムシフトによるメリットは、それだけではありません。これにより、災害対策が「誰もが参加可能なフィールド」になるというメリットもあります。どういうことでしょう?
前述したとおり、脆弱性は社会のありとあらゆるところに、無限ともいえるだけ存在しています。限られたリソースでは、こうした無限の脆弱性に対処するのは難しい。
ビジネスとして成立させ、経済活動に乗せることができれば可能性はあるが、「防災」はビジネスにするのが難しい。なぜなら、消費者にとって防災はコストだからだ。というのが、防災が広まらない理由のひとつでした。しかし、フェーズフリーの場合はどうでしょう?
ここでも、例をもとに考えてみたいと思います。「脱出ハンマー付きシガーソケットUSBカーチャージャー」という商品があります。日常時には自動車のシガーソケットにつけて使う充電器として、非常時には窓ガラスを割るための脱出ハンマーとして利用することができる商品です。