
富山に本社を置く産業機械メーカー・スギノマシンは、営業部門におけるデータ活用とAI導入を段階的に進め、「AIありき」ではなく経営課題から逆算したデジタル営業改革を推進している。一度は入力負荷の壁に直面したSFA運用を、営業現場の生の声を起点に、分析・予測へとつなぐ「三段階のAI活用ロードマップ」を描くことで、kintone(キントーン)を基盤としたデータ連携と商談解析AIで刷新する。その取り組みについて、経営企画本部 営業企画部 部長の山田義則氏に話を伺った。
多品種化と市場変化のスピードに対応するための営業改革が急務に
代表取締役社長 杉野岳氏
富山に本社を構える産業機械メーカー、スギノマシン。自動車産業を中心に発展してきた同社は、現在では北米や欧州など自動車産業の盛んな地域にも事業を展開し、宇宙を含む航空機業界や医薬品・化粧品業界にも事業領域を広げつつ、グローバルな成長を遂げている。富山に2つの工場と本社を構え、静岡・掛川にも事業所を持つ。製造業として異例の高い利益率を維持し、創業以来赤字を出したことがない。営業利益・純利益ともに右肩上がりを続けるなど、堅実かつ挑戦的な企業として知られている。
しかし会社の規模が大きくなるにつれ、営業面での課題に直面したという。代表取締役社長 杉野岳氏はこうコメントしている。
「情報が分散・分断され、全体像を捉えることが難しくなり、自分の狭い情報に頼った活動ばかりになってしまったため、システマチックに解決する必要があると考えました。自分たちの頭の中にだけ入っていた情報をデータとして外に出し、他の情報と紐付けて活用し、その結果をまたデータとして共有する。この循環が『営業におけるデータドリブン』の基本であると解釈しています。また、定量かつファクトベースの仕組みが整えば、よりロジカルな計画立案や進捗管理、実施・継続の可否判断ができると考えています」
経営企画本部 営業企画部 部長 山田義則氏
山田氏は2023年春に着任。商品の多品種化と顧客環境の変化が進み、営業活動の複雑化が進んでいたという。「お客さまのビジネススピードが上がり、これまでの方法では対応が難しくなっていました。そこで、まず内部要因については現場ヒアリングを行い、外部要因についてはPEST分析や競合分析を通じて課題を明確化しました」と山田氏は振り返る。
SFA・CRM・MAを統合した「新日報アプリ」で営業データを可視化
こうした分析の結果掲げたのが「デジタル営業改革」だった。そして、その実現に向けてデータを資産化し、営業戦略に活かすために選んだのがサイボウズのキントーンである。「マーケティングと営業手法を改善しなければお客さまの声も集まりません。データを貯め、それを活用していくためにキントーンを使う必要があると考えました」と山田氏は語る。
すでに2017年からキントーンを活用していたが、案件管理が中心で営業活動やスキルの可視化は十分ではなかった。
「私は前職で海外製SFAシステムの導入を担当していたため、SFAに求められる要件を把握していました。その知見を活かしつつ、同等の機能をより低コストで再現することが、私が掲げたミッションでした」と山田氏は振り返る。
その具体策として2024年に実装されたのが「新日報アプリ」である。従来の案件管理中心の仕組みから脱却し、営業活動の可視化とデータドリブン経営へ移行すべく、SFA(営業支援)・CRM(顧客管理)・MA(マーケティングオートメーション)の3要素をワンプラットフォームにまとめた。
新日報アプリでは、営業担当者が予定を登録し、活動後に実績を反映することで、行動の成果を可視化できる。初回面談の日報登録から契約に至るまでのリードタイムも把握可能となり、商材ごとに異なる営業サイクルを正確に捉えられるようになった。これは需要予測の精度を上げることにもつながり、最終的に中間在庫の最適化にも一役買う。山田氏は「例えば、工具と原子力ではリードタイムがまったく異なります。工具で1カ月以内に売り上げになることもあれば、原子力関連では2年、3年とかかることもあります。世界中で多様な商材を扱っている当社にとって、これを可視化することは非常に重要です」と説明する。そこで同社では、商材別にリードタイムを設定し、その期間に応じて営業活動をアラート化する仕組みを設けた。
また、Umee Technologiesが提供するプラグイン・連携サービス「Front Agent」を活用した、生の顧客情報をAIがテキスト化しキントーンへ自動連携する取り組みも進行中だ。「営業担当が取得したお客さまの生情報をAIが文書化し、キントーンに自動で反映できるようにしています」。
こうしてキントーンを中心に据え、社内外のシステムやメディアを連携させたデータ基盤を整備している。「キントーンをハブにして、基幹システムや連携サービス、自社メディア、外部メディアなどあらゆる情報をつなげています。私自身が広報を兼務しているのは、ホームページやイベントから取得したお客さまのスコアをリード情報として営業につなげるためです。一定スコアに達したお客さまについては『この方はこの商品に関心が高いようです』と営業へ通知しています」(山田氏)
基幹システムからは受注情報や既納入データをキントーン上に集約し、営業戦略を立案する際の指標として活用。さらに、ホームページではID登録制の「マイページ」構築を進め、キャンペーン案内やマーケティングヒアリングなどの反応データをリードスコアに自動反映する仕組みを構築中だ。
この連携の全体像を山田氏は「デジタルマーケティング連関図」として社内に示した。キントーンを中心に、基幹システム、MA、営業ツール、Webデータなどが一元的に紐付けられており、経営層を含めた全社が「どのデータがどの業務につながっているか」を把握できるようになっている。「経営層が全体像を理解できなければ改革は進められません。すべての情報がどう結びついているかを明確にするために、この連関図を作り上げました」
営業活動を可視化し、データドリブンな戦略策定を支えるプラットフォームに
新日報アプリでは、「PR(認知・集客)」「提案」「デモ」「仕様打ち合わせ」「契約」「納入・売上」「アフタービジネス」の7つの営業ステップを設定し、関連する日報どうしを紐付けることで、各ステップでの滞在日数を自動集計できるようにしている。
「これにより、各営業担当者の活動特性や強弱が可視化され、育成にも活用できるようになります。同じ商品を扱っていても、営業によって成果や収益率にどうしても差が出てきます。そこをキントーンで可視化することで、それぞれの傾向を把握し、教育やサポートに生かせるようになります」と山田氏は説明する。さらに、日報データを通じて顧客の要望や課題を開発部門と共有し、商品開発やデジタルマーケティング戦略への反映も狙う。「お客さまの声を定量的に蓄積し、研究開発の現場へ届けることが今後の成長の鍵になると考えています」
営業データの集計も進んでおり、新規顧客へのアプローチ率や訪問状況、個人やチーム別・営業所別の活動量を可視化している。これらの数値は営業マネージャーが週次で共有し、チームディスカッションの材料として活用できる。「営業にとっては厳しい数字もありますが、事実をベースに話し合うことで組織全体の改善につながります」と山田氏。キントーンを、活動管理だけでなく振り返りと戦略策定を支えるプラットフォームとしても位置付けている。
また、データドリブンな営業活動の一環として、展示会戦略の刷新にも取り組んでいる。従来は展示会で新規リードを獲得した後に営業フォローを行っていたが、現在は開催の3カ月前からプレマーケティングを実施し、展示会当日に契約を獲得するスタイルへと転換した。「展示会の情報はキントーンに登録され、営業がどのくらい訪問し、どの段階で商談化・契約化したかをリアルタイムで把握できます。ダッシュボードで展示会成果を即時に確認することで、次の戦略につながります」(山田氏)
一方で、SFA導入には「日報を入力しない営業員が一定数いる」という共通課題もあった。データが蓄積されなければ分析も戦略立案もできない。そこで同社は、前述した「Front Agent」のAIを活用して、営業現場の入力負担を軽減する仕組みを整備した。営業担当が顧客と対話した内容をAIが自動で文字起こしし、ワンクリックでキントーンへ登録できるようにしている。「営業担当者がフィルターをかけてしまうと、顧客の本音が抜け落ちることがあります。AIを使って、生の声を正確に残せる仕組みを整えることが重要です。今後は、この議事録作成機能をさらに発展させ、AIによる自動登録を実現する予定です」と山田氏は言う。
これら一連の取り組みは、データに基づいた営業のアプローチ方法の深化と精緻化を実現するためのものだ。杉野氏は「これは経営戦略の転換への足掛かりであり、今後は全部門に対してデータドリブンで戦略を立案・実行するなど、活動を広げていきたいと考えています」と語る。
スギノマシンでは現在、営業活動におけるAI活用を3段階に整理し、「ためる」「分析する」「予測する」というロードマップを描いている。第一段階の「ためる」では、商談解析AIによって顧客との会話を正確にテキスト化・構造化し、キントーンへ連携する仕組みを整備した。これにより、営業担当者が聞き取った発言の意図や要望を正確に蓄積し、個々の商談データを資産として残せるようにする狙いがある。
次の段階となる「分析」では、AIを用いて蓄積データをカテゴリ化し、営業成果との相関を可視化する。そして最終段階の「予測」では、分析結果をもとにAIが成約確度やリードタイムを予測し、アラート配信や次の行動をレコメンドする仕組みを目指している。
今後は、AIエージェントを中心としたプラットフォーム化を進め、営業活動全体を自律的に支援する構想を描いている。すでにAIプラットフォームのテストを開始しており、来春の本格稼働を目標に開発が進んでいるという。「AIエージェントを使って全体を回す仕組みの構築を進めています。現在は各種ソフトウエアの検証や研究を進めており、来年の春には本格稼働を目指しています」と今後の営業DXについて語ってくれた。
(2025年10月 取材)
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