長期にわたって日本経済が低迷する中、政府からは人材への投資を推進する方針が打ち出され、企業にとって「人的資本経営」の実現は喫緊の課題となっている。関西学院大学院 経営戦略科の客員教授を務める落合亨氏は「人的資本経営を推し進めるためにはHR部門のDXが必要不可欠」だと語る。ウィズコロナの時代における、人的資本経営とHRDXを戦略的に進めていくためのポイントや取り組み方について落合氏が解説する。
※本コンテンツは、2022年11月21日に開催されたJBpress/JDIR主催「第2回 人・組織・働き方イノベーションフォーラム」の基調講演「人的資本経営とHRDX(Withコロナにおけるロードマップ)」の内容を採録したものです。
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人的資本経営を進める「“シン”人材戦略」の考え方
新型コロナウイルス感染症のパンデミックが宣言されてから約3年。それ以前と比べて、人々のライフスタイルやビジネス環境は大きく変化した。落合氏は「これまでの経緯などを鑑みると『ウィズコロナの世界』が私たちの働く環境においてはニューノーマルになると考えられる」と話す。
働き方において、特にコロナの影響で大きく変わったものとして、同氏は「ミーティング」「人間関係」「オフィス環境」の3つを挙げる。これら3つの要素について考えていく際に「デジタル」と「人的資本経営」が鍵となるという。
「基本的に『全てデジタルに変わる』という前提のもとで、デジタルに置き換えられない『ヒューマンタッチ』などは何かといったことを考えるステージにあると思います。また、人的資本経営という言葉が注目される背景には、政府が人的資本経営と情報開示強化に向けて大きくかじを切ったこともあるでしょう。岸田総理は『付加価値が成長の源泉であり、それは人にある』と明言しています。このような『人に対して投資しましょう』という政府の方針に基づいた取り組みを、人事が進めることは大事なのではないかと考えています」
経済産業省は、岸田政権が新資本主義を唱えることに先立ち、有識者を集めた会議を開いた。その議論にもとづいて公表されたのが「人材版伊藤レポート2.0」だ。そこでは、人材確保と機動的戦略の重要性が強調されている。落合氏はこれを踏まえた上での留意点について指摘する。
「人的資本経営を人事だけの課題にせず、取締役会で自社の人材戦略をモニタリングする必要性にも言及していくことが、大きなポイントです。人的資本経営というと『人事の課題』だと捉えられがちですが、会社の最も高い次元から考えていくことの重要性も示されているのです」
また、人事的な実務の観点からみると、企業は「全社経営戦略・人事部・各事業部」が三位一体となって「“シン”人材戦略」を実践するべきだと説明する。そのポイントとなる考え方が次の5つだ。
①企業戦略のもと、人材ポートフォリオを練り直す
②社内外に開かれた多様なキャリアパスを提示する
③デジタル時代に求めるスキルを再定義する
④格付け人事評価から脱却し、新人事制度のもと人材育成を加速する
⑤人材の多様性を促進し、経営の複雑性に対応する
これらを踏まえた上で、人材戦略に落とし込んで検討していくことが求められる。