大企業でネットワーク型組織を取り入れることのメリット、導入時の手順や留意点をまとめた書籍『変化に強く、イノベーションを生み出す ネットワーク型組織のつくり方』(北郷 聡、橋本 洋人著/すばる舎)から一部を抜粋・再編集している当連載もいよいよ最終回。
本稿では、ネットワーク型組織を機能させることに成功している大企業として、サイバーエージェントの事例を取り上げる。1998年の創業から20年以上を経る同社は、連結従業員数が6000人を超える大企業となった今も、「ABEMA」をはじめとした革新的なサービスを次々と立ち上げている。その原動力となっているのが「年間約1000人との面談を通した人材掌握」「若手の経営層登用を通じた人材育成」、そして「変化を創り出す組織文化の醸成」だ。詳しく見ていこう。
<連載ラインアップ>
■第1回 「ネットワーク型組織」が必要な理由と時代が求める組織変化
■第2回 今後、必要になる組織要件・3つのポイント
■第3回 ネットワーク型組織として組成すべき対象組織
■第4回 ネットワーク型組織の体現に成功している企業の事例【サイバーエージェント】(今回)
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Case 3 株式会社サイバーエージェント
会社プロフィール
株式会社サイバーエージェント(以下略称:サイバーエージェント)は、創業1998年、「21世紀を代表する会社を創る」をビジョンに掲げ、新しい未来のテレビ「ABEMA」の運営や国内トップシェアのインターネット広告事業、ゲーム事業などを展開している。従業員数は連結6,000人を超える大企業である(2021年9月末時点・図1-16)。
目指す組織のあり方
サイバーエージェントの特徴は、創業から20年余りが経過した今でも、社員主体で常に新たな事業が生みだされていることである。肩書も年次も関係なく、さまざまな社員がアイデアを持ちより、提案が採用されれば、発案者には権限が与えられ、スピーディに事業が進められる。
このような取り組みを通じて生まれた企業は累計32社、売上は3,000億円以上である(2021年9月末時点)。6,000人もの従業員がいる中で、サイバーエージェントはなぜ変化を生み出す組織であり続けられるのか?
ここでは、サイバーエージェントが【遠心力】【求心力】を実現させるための仕組みとして工夫している点について解明したい。
同社が持つ遠心力の内容
サイバーエージェントでは、業績だけではなく、人望や人間性を重視した人材の見極めを行っている。具体的には、役員自らが社員と積極的にコミュニケーションを取り、リーダーとしての適性を複数の視点から検証し、権限を委譲している。以下「年間約1,000人との面談を通した人材掌握」「若手の経営層登用を通じた人材育成」「変化を創り出す組織文化の醸成」について説明したい。
■ 年間約1,000人との面談を通した人材掌握
サイバーエージェントでは、人事担当役員が年間約1,000人と面談・会食を行っている(インタビュー実施時期は2019年末であり、コロナ禍以前であることから会食を通じたコミュニケーションも行われていた)。
さまざまな部署のメンバーとの直接対話を通じて、役員は、どの部署にどのような人材がいるのか、それぞれがどのような志を持っているのかを把握する。具体的には、役員が業務の約3分の1程度の時間を使い、社員10名ずつ程度のグループと対話を行っている。
その際、参加者は、要望に応じて複数部署から構成されることもある。こうして役員は社員と直接会話することで、権限を与える人材を選定する際に、その人物を具体的に思い浮かべながら検討できる。
一方、役員が面談を通じて社員の人となりを把握できたとしても、実際の働きぶりを知ることは難しい。そこで、役員は権限委譲の候補になっている人材の上司・部下・業務上関わりのある組織内外の人物とも、将来の目標や、組織の状態、周りの活躍人材などについて話し、候補者の行動に関する情報を集める。そうして、複数の視点から集めた候補者に関する情報を踏まえ、リーダーとしての適性を検証するのだ。