「ネットワーク型組織」はベンチャー企業だけのものにあらず!大企業にネットワーク型組織を導入、運用するための手順や留意点を解説した書籍『変化に強く、イノベーションを生み出す ネットワーク型組織のつくり方』(北郷 聡、橋本 洋人著/すばる舎)から一部を抜粋・再編集してお届けしている本連載。

 第3回となる今回は、ネットワーク型として組成することが向いている3種類の組織を説明するとともに、その導入を成功させるために必要なポイントを解説する。対象となる組織は「事業創造」「商品・サービスのイノベーション」「業務などの継続的な改善」の3種類だ。

<連載ラインアップ>
■第1回 「ネットワーク型組織」が必要な理由と時代が求める組織変化
■第2回 今後、必要になる組織要件・3つのポイント
■第3回 ネットワーク型組織として組成すべき対象組織(今回)
■第4回 ネットワーク型組織の体現に成功している企業の事例【サイバーエージェント】

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ネットワーク型組織として組成すべき対象組織

 ネットワーク型組織として組成すべき対象組織を整理すると、大まかには以下の3つに大別できる。(図1-06)

1. 「事業創造」
2. 「商品・サービスのイノベーション」
3. 「業務などの継続改善」

 ここからは上記3つに関して、特徴とともに個別に掘り下げていきたい。

1. 「事業創造」の場合

 1つ目は「事業創造」の場合である。新規事業の創造はどのパターンよりも成功が難しく、組織運営のやり方も難しい。「新規事業が自社にとって全く関係ない飛び地の領域」ということはまずなく、顧客・技術・事業など、何らかの自社の強みを活かして進めるため、必要となるトップ人材を集結して推進することになる。

 この組織を成功させるうえでは、3つのハードルがある。

①エース人材の配置
②権限の付与
③スポンサーシップの獲得

①エース人材の配置

 ハードルの1つ目は、各既存組織からエース人材を獲得できるかどうかである。新しい組織を立ち上げる際、新規採用でない限り、既存組織から人材を出してもらうことになる。新事業組織は難度が高いため、優秀な各所のエース人材を配置することが望ましい。

 しかし実現には、「各組織の上長と本人それぞれからの抵抗」というハードルが存在する。各組織の上長は「エース人材を出してくれ」と言われても、当然自部署の戦力ダウンにつながるため、全社的な優先事項とわかっていても、2番手、3番手の人材を出しがちである。これを防ぐには、新規事業組織長が欲しい人材を指名して一本釣りできることが必要になる。

 ただし、この後の2つ目でふれるが「新規事業組織設立後に各既存組織から協力が得られるか」という問題にも関わるため、既存事業長からの恨みは買いたくない。そのため、自分がその人材を指名して奪っていったと思われない仕掛けが重要になる。例えば、実質的に新規事業組織長が指名するが、表向きの調整は経営トップクラスのスポンサーが行うという状況を作ることが解決策の1つである。

 もう一点の「本人の抵抗」というハードルは、失敗した際のリスクに起因することが多い。多くの日本企業の場合、昇格や評価は加点主義ではなく、減点主義で行われている。したがって、失敗するリスクも高い新規事業領域には「評価を気にしないような、もともとの資質が高い人」しか希望しない場合が多い。既存事業で優秀な成果を収めている多くの人は、わざわざ失敗リスクが高い新規事業組織に、自分からは行きたがらない。しかしこれでは十分な質・量の人材を新規事業組織に配置できない。

 そのため、人事評価制度を加点式に変更することが肝要になる。全社の人事制度の統一性の観点から、新規事業組織だけの人事制度変更が難しい場合も多い。その場合、目標の掲げ方やコミットメントを、努力で達成できる中間成果・指標にするなど、減点されない運用上の工夫が非常に大切になる。