トヨタ自動車の「カイゼン」は、製造現場のみならず、事務部門においても徹底されているという。「現状分析と問題解決の手法が脈々と受け継がれている」と話すのは、元トヨタ自動車レクサスブランドのマネジメント部長であり、現在、A.T. Marketing Solutionの代表を務める高田敦史氏だ。チャレンジし続ける組織の在り方について、自身の経験を交えて語った。
※本コンテンツは、2022年12月14日(水)に開催されたJBpress/Japan Innovation Review主催「第7回 Martketing&Sales Innovaton Forum」の特別講演1「元トヨタ自動車レクサスブランドマネジメント部長が語るチャレンジし続ける組織を作るには」の内容を採録したものです。
カイゼンの文化が生み出した「LEXUS INTERNATIONAL」
現在、A.T. Marketing Solutionの代表を務める高田敦史氏は、過去31年間にわたりトヨタ自動車で広告宣伝、商品企画、ブランドの再構築といった分野で新しい組織の立ち上げに携わってきた。
「私が30代のころ、当時社長を務めていた奥田碩氏の号令で“若者に受けるトヨタ”を目指す『WiLLプロジェクト』が発足しました。これは『VVC(バーチャル・ベンチャー・カンパニー)』と呼ばれる社内組織を構成し、異業種と連携した企画を進めるもので、社員がトヨタ社本体の外に出てチャレンジするという試みでした」
高田氏は、同プロジェクトにおける第1号車となる「WiLL Vi」の企画に関わった。カボチャの馬車をイメージしたデザインと「雑貨感覚」をコンセプトとした同車は、狙い通り若者の支持を得てロングセラーとなったという。高田氏はトヨタ社を「戦艦大和」にたとえ、「トヨタは『戦艦』の内部を変える前に、社員を組織の外でチャレンジさせるという重要なマインドがあった」と語る。
「『国内の宣伝部を別会社化して新しい広告作りにチャレンジせよ』という声をきっかけに、マーケティング業務の専門性と機動性を高めることを目的としてトヨタマーケティングジャパンが設立されました(2018年4月にトヨタ自動車に統合)。宣伝部に在籍していた社員だけでなく、広告代理店からも人材を集め、営業視点に偏らない話題性の高い広告作りを目指しました」
そして高田氏が「トヨタ生活の最後に担当した」と話すのが「LEXUS INTERNATIONAL(レクサスインターナショナル)」の設立だ。良いものを安く顧客に提供する「トヨタ」と、夢を提供する「レクサス」とでは、そもそもの文化や発想が異なる。そのため、レクサス組織の「社内分社化」に踏み切った形だ。「(トヨタとは異なる)独自の判断で高級車のマーケットをレクサスで打倒したい 」という狙いがあった。
そもそもレクサスブランドは1989年にアメリカでスタート。日本のマーケットでの展開は2005年からだ。その当時、すでにアメリカで成功しているブランドであるからこそ「何が何でも日本で成功させたい」と意気込む国内のレクサス担当の努力により、レクサスの売れ行きは好調な滑り出しを見せた。しかし2010年ごろから「ブランドに軋(きし)みが出てきた」と高田氏はいう。ユーザーの高齢化や輸入車の購買意欲を思うように高められなかったのが原因だ。
そこで同社はデザインを刷新し、レクサスの新しい顔(スピンドルグリル)を確立した。それと同時に高田氏は、広告、ブランディングの部分でも新しいタグライン「AMAZING IN MOTION」を導入するなど、製品依存からの脱皮を目指していった。
「それまでの『完璧』を追求するブランドイメージに加えて、『AMAZING』、つまり驚きや感動を次々と提供していくブラントにしたいと考えました。製品依存からの脱却を目指し、エモーショナルなブランドに変えたいと思ったのです。そこで立ち上がったのが『LEXUS INTERNATIONAL』です。同社では、グローバルなブランドキャンペーンの展開やカフェレストランの開業など、車だけでなくブランド全体で「AMAZING IN MOTION」を実現するための取り組みを実施。結果としてレクサスのブランドイメージは若返り、新ユーザーの取り込みに成功しました。これらトヨタでの体験を通じて、チャレンジする組織に必要なことを学びました」