ビール市場で「スタンダード領域」の戦いが激しさを増している。同領域はアサヒビールの「スーパードライ」、キリンビールの「一番搾り」、サッポロビールの「黒ラベル」などがしのぎを削る最大の激戦区。ビール市場の最も大きなボリュームを持つマーケットに、サントリーが新たに「サントリー生ビール」を投入し、攻勢に打って出た。最激戦区に新商品を投入した背景や経緯、ビール市場での今後の勝ち残り策などについて、サントリー取締役常務執行役員でビールカンパニー社長の西田英一郎氏に聞いた。
どこか懐かしい「サントリー生ビール」誕生の経緯
――今年(2023年)4月4日から「サントリー生ビール」を発売しました。このタイミングで新商品を投入した意義や狙いについて教えてください。
西田英一郎氏(以下、敬称略) 我々にはプレミアム領域で「ザ・プレミアム・モルツ」(以下「プレモル」、2003年発売)という看板商品があり、スタンダード領域にも、「ザ・モルツ」(2015年発売)や糖質ゼロの「パーフェクトサントリービール」(以下「PSB」、2021年発売)があります。ですが、今年10月と2026年に酒税改正が行われ、ビールの酒税が減税、新ジャンル(=第3のビール)が増税となる今後の流れをにらむと、新しい商品がまだ必要だと考えました。
――「サントリー生ビール」と入れ替わるように、「ザ・モルツ」の缶商品は終売になりました。「ザ・モルツ」も、その前身の「モルツ」(1986年発売)も麦芽100%(原料は麦芽とホップだけ)のビールでしたが、「サントリー生ビール」もモルツシリーズと同様に麦芽100%のビールにするという選択肢はなかったのでしょうか?
西田 もちろん、「ザ・モルツ」やかつての「モルツ」のリバイタライズ(ブランドの刷新)という考え方もありました。ただ、そうした手法で1000万ケース(1ケースは大瓶換算で633ml×20本)級のボリュームを狙っていくとなると、なかなか厳しいかもしれないなと。
サントリーのビールはこれまで、どちらかといえば麦芽100%の濃厚な味わいを前面に出してきましたが、今後販売ボリュームの拡大を目指していくうえでは、お客さまのニーズを踏まえるとスッキリ系の味わいの商品もラインアップに加えたいと考えました。そこで開発したのが「サントリー生ビール」です。
ただ、スッキリ系でもしっかり中味設計をし、飲みごたえと飲みやすさを両立させた自信作に仕上がりましたので、これまで一時代を築いてくれたモルツシリーズとはまた違った新しさが出せたと思います。
――「サントリー生ビール」は1967年に発売した「純生」の流れを汲む、懐かしいリバイバル商品の色彩もあります。商品のネーミングもストレートですね。
西田 ネーミングは「純生」も考えましたが、思い切ってシンプルに「サントリー生ビール」だけにしました。そのうえで生ビールの樽をデザインモチーフとし、SUNTORYの文字を大書して躍動感を表現するという、従来にはなかなかなかった発想を取り入れています。
――「サントリー生ビール」の価格はPSB同様、他社より安い値付け(350ml缶)になっています。その差分はどんな工夫でコストを吸収しているのでしょうか。
西田 物価高騰の折、少しでも消費者の皆さんの家計のやり繰りの一助になればという思いもありますし、なによりまずはお試しいただきたいと考えています。また、「サントリー生ビール」で今後、500万ケース、1000万ケースと販売ボリュームの道筋が描いていければ十分にコストは回収していけます。
おかげさまで出足は好調で5月に販売は150万ケースを突破しました。今年4月からの発売ですから、初年度はまず計画の300万ケースを達成して、さらに超えていきたいところです。