「ときわ亭」の顧客のほとんどはZ世代と言われる若い世代。独特の雰囲気を醸し出している
客席のテーブルにレモンサワーのタップが付いていて、自分の好きなタイミングで好きなだけレモンサワーをジョッキに注ぐことができる。フードメニューは外食で不動の人気ナンバーワンの「焼き肉」。この組み合わせで急成長しているのが「0秒レモンサワー 仙台ホルモン焼肉酒場 ときわ亭」(以下、ときわ亭)だ。1号店は2019年12月横浜にオープン。その翌年からコロナ禍となるが、その中でも展開を進めて3年ちょっとの23年2月末で80店舗となっている。この「サワー注ぎ放題と焼き肉」という組み合わせの店はどんどん増えて居酒屋業界の一大ブームになってもいいように思えるが、実際は「ときわ亭」が独走に近い状態だ。しかも、お客も、従業員もZ世代が集まっている。それはなぜだろう。
「すみませ~ん」不要で、タイムパフォーマンスが高い
お客が「ときわ亭」に入店して注文するときの流れを紹介しよう。
まず、卓上で自分で注げるレモンサワーについて、従業員から「60分550円(税込み、以下同)」であることの説明がある。延長は「30分330円」。
「ときわ亭」の一番の特徴は、各テーブルに「レモンサワー注ぎ放題」のタップがついていること
ここで、料理について最初の注文を口頭で行う(ファーストオーダーをスタッフが対応してくれるので、注文が通っていないのでは、と心配せずに済む)。だが、その後の注文は、卓上にあるタッチパネルで行っていく(これにより、注文のたびに「すみませ~ん」と従業員を呼ばなくてよいので、タイムパフォーマンスが高くなる)。
「ときわ亭」が出店する場所は、ファサード(店舗としての外観)をつくることができる地下1階、1階、2階としている
焼き肉の看板メニューは「塩ホルモン」(439円)、「“肉塊”レモン牛たん」(1869円)、「ときわ亭カルビ」(879円)。このほか、フードメニューは一般的な焼き肉店のものがまんべんなくそろっている(料理が早く提供される点も特徴で、これもタイムパフォーマンスを高める一要素になっている)。
「ときわ亭」の看板メニューの一つ「塩ホルモン」
もう一つの看板メニュー「“肉塊”レモン牛たん」。存在感が“映える”
ときわ亭の平均客単価は3300円(税込み)。筆者は「ときわ亭」で何度か食事をしているが「90分3000円のレジャー」というイメージを抱いている。それは例えば「1万円を払って、品質の高い肉を食べた」というものとは異なり、「90分楽しく飲んで食べて3000円」というものだ。
だから、お客が若い。見事にZ世代ばかりとなっている店もある。
同店を展開するのはGOSSO(本社/東京都渋谷区、代表/藤田建)。ビルの空中階にバルやカジュアルレストランを展開してきたが「年商100億円規模の持続可能な企業」を目指すようになり、パートナーを見いだして「サワー注ぎ放題と焼き肉」の「ときわ亭」を生み出した。
この仕組みにタッチパネルオーダーを合わせて、代表の藤田氏は「ストレスフリーの焼き肉エンターテインメント」と称している。「ときわ亭」はこの「ストレスフリー」が大きなポイントとなっている。
藤田氏はこう語る。「当社のミッションに『人生に潤い』があります。これは大切な人との時間を過ごす喜びを分かち合うこと、楽しい場を共有することです。『ときわ亭』はお客さまが待ち時間0秒でお酒を注ぐことができて、自分で肉を焼き、自分のタイミングでタッチパネルで注文する。全てがマイペース。だから、店内に『すみませ~ん』という言葉が存在しない。従業員もお客さまもストレスフリーで楽しい場になっています。まさに当社のミッションを具現化した業態です」
アルバイトに若い従業員が定着する仕組みがある
GOSSOが重視していることは「お客さまが行きたい店は従業員が働きたい店」ということだ。そこで「従業員にとって楽しい職場」であることを何よりも優先した。
ときわ亭にはアルバイトの離職率を下げるための仕組みがある。それは、アルバイトが勤務に就いて、初日、1週目、8週目、12週目といった節目に社員からアルバイトへ適切な声掛けを行うための仕組みだ。
これは、これまで飲食店が「勘と経験」で行ってきたことを「数値化」することで取り組み方を変えようということである。
「勘と経験」の世界には「アルバイトはすぐに辞めるよね」という言葉がある。これは定性的な表現であり「いつ辞めるのか」「なぜ辞めるのか」が示されていない。これを解決するために、この仕組みを開発した会社ではクライアントのアルバイトの定着状況をデータで解析した。それによるとアルバイトの「辞め時」は4つに収れんされ、初日(定着率87.5%)、1週目(同74.1%)、4週目(同57.3%)、8週目(同45.3%)となった。
この「辞め時」の節目とは「アルバイトの承認欲求の節目」(藤田氏)であるという。例えば、アルバイト初日では「自分の制服や名札が用意されている」「先輩従業員が自分の名前を知っている」ということがとても重要となる。ときわ亭はここに仕組みを入れることで、それ以降の「辞め時」の承認欲求に適切に応えようとしている。
アルバイトの定着性が高まると、店の従業員のチームワークが整う。従業員は店で働くことが楽しくなる。それを見ているお客は、そのようなチームワークを素敵だと感じ、またこの店に来たいと思うきっかけとなり、ここで働いてみたいとも思うようになる。だから、ときわ亭のアルバイトはZ世代をはじめとする若い世代が多い。
従業員の定着性が高まると、社員は休日をしっかりとれるようになる。こうしてお客も従業員もストレスフリーになっていく。現在「ときわ亭」の定着率は80%という。
Z世代の顧客づくり、リピーターづくりにも積極的
「ときわ亭」にZ世代のお客が集まる理由は、それだけではない。Z世代の顧客づくり、リピーターづくりも積極的に行っている。
「ときわ亭公式アプリ」の会員となると、来店のたびにレモンサワーにトッピングする「冷凍レモン」がプレゼントされるが、それに加え、アプリ会員は来店回数に伴って階級が上がっていき、来店時の特典がランクアップする(スタートは「幕下レモン」という階級で1~3回の来店、ここでは「金色のタンブラー」と「塩ホルモン1皿」がプレゼントされる。現状の最高位は「横綱レモン」で19~23回の来店、特典は「直営店レセプションご招待券」となる)。
また、4月5日より「ときわ亭公式アプリ」を全面的にリニューアルし、新たにポイントプログラムを導入する。来店ごとに加算されたポイントで商品や限定ノベルティを交換できるほか、来店ポイントが倍増になるキャンペーンや、ためたポイントを友達とシェアできるなどの企画を予定している。
現状、ときわ亭のアプリ会員は全国に約20万人。直近3カ月のデータによると、アプリ会員の再来店率は42%で、アプリ会員に連れてきてもらった新規客が、先に述べた「楽しそうな空気感」を体験して、アプリ会員となって再来店するわけだ。
ときわ亭では、アプリ会員に向けたキャンペーンも展開する。直近では「ぜんぶときわ亭だ。」が2月中の月曜日から木曜日まで限定で実施された。その内容は「当日の朝、ときわ亭の担当社員が『寒い』と感じたら、0秒レモンサワー60分550円を無料で提供する」というもの。期間中は当日の朝8時にアプリ会員に知らせが届く。
このように、ときわ亭には、さまざまな「お得」があるのである。
今年の2月の月~木に実施したキャンペーン
「ときわ亭コミュニティ」もZ世代を引き付ける理由
さらに、ときわ亭では「公認アンバサダー」の制度を導入。これはときわ亭の本部がアンバサダーを公募し、その中から12人を選出してアンバサダーの任務を遂行してもらうというものだ。
任期は半年間で、アンバサダー任務は以下のような内容。
・任期中に月1回以上来店して、食事の様子をSNSに投稿する(指定のハッシュタグやレギュレーションがある)
・任期中に数回のアンバサダーミーティング(オンライン、リアル)に参加する
・「ときわ亭キャンペーン」の告知をSNSに発信する
・その他のPRに協力してもらうこともある
ときわ亭の調査ではアンバサダーが一度ツイッターで発言をすると200人の集客につながるという。
アンバサダーの活動特典は任期中の毎月1日に「ときわ亭」で利用できるアンバサダークーポン「3000円×2枚」が公式アプリで届けられること。アンバサダー任務に対して任期中(半年間)の報酬が3万6000円の「ときわ亭お食事券」ということだが、その多寡についてはさておき募集開始とともに希望者が絶えないという。公認アンバサダーは「ときわ亭ラバー」にとっては誇らしい任務。こうした点もZ世代を引き付ける理由の一つになっている。






