サーキュラーエコノミー(循環型経済)が提唱される中で、CX(カスタマーエクスペリエンス:顧客体験)もサーキュラー化していくと考えています――。そう語るのはマーケティング論とイノベーション論を専門とする早稲田大学大学院 経営管理研究科(ビジネススクール)の川上智子教授だ。サーキュラー型のCXでは、顧客との関与の度合いをどんどん深めていく「釘付けジャーニー」の実現がカギになるという。
一方、企業は経済的価値だけでなく社会的価値の創造も求められるようになってきた。社会的価値の創造につながるCXの向上はどうすれば実現できるのか。ここにおいても、川上氏はサーキュラー型CXの活用を提唱する。
「売って終わり」ではないサーキュラー型のCX
――「サーキュラー型のCX」はこれまでのCXとどう違うのでしょうか。
川上智子氏(以下敬称略) 近年、「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」(製品、素材、資源などの価値を長く維持し、廃棄物の発生を最小限に抑える経済システム)が提唱されていますが、経済がサーキュラーになっていくと、CXもサーキュラーになると考えています。
以前のCXやカスタマージャーニーは「売る」までをゴールとした短期的なモデルが一般的でしたが、いまはその先があります。分かりやすく言えば、購買した顧客に満足、共有してもらいロイヤルティを高めてもらうことで、ファン化してもらうことが重要になっているのです。
CXにおいては、オフライン・オンラインを統合してファン化を目指すモデル(ニューアイダ・モデル、下の図)がすでに存在しますが、近年はサーキュラー型のCXを通してファン化してもらうモデルが広まりつつあります。
――それはどのようなモデルなのでしょうか。
川上 最近の研究では、2種類のモデルが提示されています。
1つは「ロイヤルティ・ループ」というもので、顧客へのポイント還元などのロイヤルティ・プログラムを用意して、購買後も顧客とのつながりを作るモデルです。
顧客に買い続けてもらうジャーニーが論理的・合理的に組まれており、研究では「スムーズ・ジャーニー」と名付けられています。一貫性があり、周到な意思決定プロセスが用意されているのですが、その分、顧客にとっては予測可能で飽きやすい。循環するうちに顧客のロイヤルティが弱まり、離脱するケースも出てきます。循環する際の輪の大きさを「顧客と企業の関係性の強さ」とするならば、輪の大きさが次第に収縮していくモデルと言えるでしょう。
もう1つが「関与のスパイラル」というモデルです。こちらは循環するほど輪が拡大していくモデルになっています。特徴は、カスタマージャーニーが絶えず変化し、ジェットコースターのように予測できないこと。企業側は顧客に提供するものを常に変化させたリアップグレードさせていきます。そのため顧客のワクワクが止まらず、関与が強まっていく。要は“ハマる”状態を作り出すというわけです。
こういったカスタマージャーニーの設計は「sticky journey」と名付けられていますが、私は「釘付けジャーニー」と訳しています。顧客が釘付けになり、どんどん没頭してファンになるというニュアンスです。ただし、没頭し過ぎることに顧客が不安を感じ、突然の離脱が起きるのもこのモデルの特徴となっています。