成熟市場といわれる日本国内では、多額の広告費を投じたからといって期待する売上を得られるとは限らない。それは新規事業や新サービスの領域でも同様であり、「認知」の獲得だけでは必ずしも成果につながらないことを意味する。では、マーケティングや事業開発に従事するプレイヤーは、どのような発想を持てばよいのだろうか。『パーセプション 市場をつくる新発想』(日経BP)の著者であり、本田事務所 代表取締役 PRストラテジストの本田哲也氏に話を聞いた。
「認知」されるだけではモノやサービスが売れない時代
――初めに、ご著書『パーセプション 市場をつくる新発想』の概要について教えてください。
本田哲也氏(以下敬称略) 書籍のタイトルにある「パーセプション」は「客観的な認識」を意味します。商品サービスの名称や企業名が知られている状態を示す「認知」、その度合いを示す「知名度」とは意味が異なります。
日本の消費者市場に存在するロングセラー商品に目を向けてみると、市場での認知度が9割近いものも珍しくありません。このような成熟市場では、「認知されていない」ではなく「狙い通りのパーセプションを獲得できていない」という課題を抱える企業が極めて多いものです。
それに気付かずに「こちらが伝えたいメッセージは、十分伝わっているだろう」という前提でマーケティングを進めてしまうと、次の打ち手が「広告の出稿量を増やす」となりがちです。
しかし、そもそもメッセージの打ち出し方が間違っているならば、そのまま広告の出稿量を増やしても売上は上がらないですよね。ここで求められるのは、いかにして情報の出し手と受け手の間にある「認識の差(=パーセプションギャップ)」を減らすか、ということです。
本書では、そうしたパーセプションについての解説や活用法、事例をご紹介しています。
――パーセプションの重要度は、ここ数年間で高まってきているのでしょうか。
本田 パーセプションは、新しいマーケティングのトレンドというわけではありません。以前から普遍的に存在しているものです。一方で、市場の不確実性が増す今の時代だからこそ、人々の認識を捉えることの重要性が増していることは確かです。
さらに、コロナ禍で人々の社会に対する考え方にも変化が見られます。「これまでのように、利益を追求するだけで良いのか」という疑問を抱く人も増えたと思いますし、一人ひとりに社会的な存在意義を考えることが求められるようになったと感じます。
また、これまでは目の前の仕事に全力投球していた人も、一度落ち着いて自分自身のキャリアを見つめ直すようになったり、社会との関係性を再考するようになったりしているのではないでしょうか。