経営学者/國學院大學 経済学部 教授 宮下雄治氏経営学者・國學院大學 経済学部 教授 宮下雄治氏

 米中が世界のデジタル覇権を巡り、激しい競争を繰り広げる昨今。米国「GAFA」、中国「BATH」のほとんどが平成以降に生まれている一方、日本からは米中ビッグ・テックに追随する企業は生まれていない。日本企業が世界から大きく差をつけられている背景には、どのような要因があるのだろうか。DXで世界から遅れを取る日本企業にとって、新たな価値を創造し、人々に広げていくマーケティングの観点がヒントになりそうだ。

『米中先進事例に学ぶ マーケティングDX』(すばる舎)の著者、経営学者・國學院大學 経済学部 教授の宮下雄治氏に話を聞いた。

GAFA・BATHの戦略に見られる共通点とは?

――著書『米中先進事例に学ぶ マーケティングDX』では、米国のGAFAや中国のBATHといった世界的デジタル企業が誕生した要因として、マーケティングDXを駆使した「攻めの経営」スタイルが挙げられています。GAFAやBATHの戦略には、どのような共通項があるのでしょうか。

宮下 雄治 氏(以下、宮下氏) GAFAやBATHの戦略には大きく3つの共通項が挙げられます。

米国「GAFA」・中国「BATH」の戦略に見られる共通項

 1つ目は「桁外れのデータ量を燃料に、成長を加速させている点」です。ここで言うデータとは、各社が提供するサービス上のユーザーの行動履歴データを指します。

 データが集まれば集まるほど、ユーザーの嗜好に対する予測精度が高まり、より魅力的なサービスが生み出せるわけです。特に、GAFAやBATHは集めたデータをAIで分析し、需要予測やマッチングといった価値に変換する能力が高い点が特徴です。

 2つ目は「デジタルを味方にした新規ビジネス開拓に余念がない点」です。

 GAFAもBATHも何十億人という顧客基盤を持っていますが、それに甘んじることなく、巨大な顧客基盤を活かした新規事業に挑戦し続けています。持続的に既存ビジネスを磨き上げながら、一方で新しいビジネスの種を蒔き続けているわけです。

 例えば、この数年間で見られる傾向として、デジタルネイティブの企業である彼らが「リアルの世界」に進出する動きが見られます。

 日本企業は自社のドメイン(事業領域)を限定し、そこから出ようとしませんが、GAFAやBATHはプラットフォーマーとしてのドメインにとどまっていません。日本のお家芸である自動車分野にも彼らの影が迫っていることからも、それが彼らの強さであり脅威であることがわかります。

 3つ目は「心に触れる良質な顧客体験を追求している点」です。顧客は簡単に操作できる製品やシンプルなサービスを求めています。それをデジタル経済で具現化しているのがGAFAやBATHです。誰もが使いやすいように、細部まで気を使った設計(UIデザイン)に余念がありません。

 デジタル経済の競争力は完全に「顧客体験の質」に移行しており、機能やデザインが優れているだけで売れる時代ではなくなりました。

 良質な顧客体験とは、顧客の抱える「不」を解決することです。不足・不快・不便・不安・不満などを徹底的にリサーチし、発見・改善する術に長けているのがGAFAやBATHの特徴だと言えます。