企業にとってますます重要となるデータ戦略。事業成長のためのデータ活用で取り組むべきポイントを整理した前回に続き、本稿では取り組みの初手として重要な「重要顧客の発見と理解深耕」にスポットを当て、考え方の基礎を解説します。

データを事業に貢献する有効資産へ

 デジタルテクノロジーの浸透、モノ売り発想からコト体験発想への転換などから、企業が保有するデータは増大。データを「顧客への価値提供に生かし、ひいては事業成長に生かす有効資産」にしていくことが求められています。

 事業成長に貢献させていくためには、個別最適なデータの活用(可視化やパーソナルレコメンド等)にとどまることなく、その先の「自社に蓄積を続けるデータを用い、顧客が商品利用を維持・促進する動機付けとなる付加価値サービスが提供できている状態」(例:ロイヤルティプログラムやコミュニティ、お困りごとを迅速に解決する仕組みなど)にまで目を向ける必要があり、さらには、データ活用が「事業そのもの」になっている状態を目指していくべきです。このデータ活用が事業そのものとは、「顧客がそのサービスを購入し、体験を享受するためには必然的、かつ能動的にデータが提供される」ことを指しています。

 前回は、これら基礎的な考え方を「データ駆動型ビジネス」と銘打ち、顧客体験の高度化や事業成長のために取り組むべきポイントを、「ビジネス戦略」「データ活用ルール」「業務設計・人材」「システム」の4つのポイントに沿って整理しました(図表1)。

データ戦略の成功の鍵は重要顧客の発見にあり

 この「データ駆動型ビジネス」に向けた取り組みのポイントを実行していくにあたり、初手として重要になってくるのが「重要顧客の発見、理解深耕」です。

 まず「重要顧客の発見」がなぜ必要なのか、少し考えてみましょう。

 データテクノロジーの進展に伴い「顧客とつながり、データを獲得する」といわれる段階から、「顧客へ体験を提供し、成果を創る」へとステップアップが求められている昨今、着実に成果を見いだすためには、「何らかの定義でくくられたゴール達成において、最も重要な顧客群」を特定しマーケティング投資を集中させることが求められます。

 ここでいう「何らかの定義」とは、性別、年代といった属性というより、ビジネス貢献に直接もしくは間接的に影響する行動の状態を指します。

 例えば、某コスメメーカーの重要顧客群の一つとして「初めての登録・購買がなされてから経過日数が90日以内」というものがあります。こうした顧客群はボリュームも大きく、その後、自社の顧客として定着する場合と、しない場合のLTV(Life Time Value:生涯顧客価値)の差が大きくなる分かれ目であるとして、重要顧客群と定義されています。

 このような定義の考え方を、シンプルに整理した一例が図表2です。

 縦軸に「商品・サービスに対する頻度や購買額」、横軸を「利用に対する満足度」とし、その高低で分類をしています。

 この場合の重要顧客とは、理想的な状態を成し得た「1」と捉えることができますし、あるいは今後の伸びしろに期待し「2」、または既に売り上げ貢献が多いものの離反につながる恐れが高い「3」とすることも考えられます。

 要は、その時々の戦略や課題に即して重要と見なすゾーンを定める必要があり、場合によっては事業貢献の大きさからゾーンを選定する方法も考えられます。

 図表2の整理・分類の他にも、実際にはさまざまな視点が考えられます。大事なのはステークホルダーの誰もが明快に重要顧客を理解・認識でき、共に追い求めていけることです。